「ひ、久しぶり…っ」


声は心と裏腹に、軽い言葉しか放たない。

きちんと顔は見れなくて、視界の片隅だけで安堂くんを映していた。

その顔が力なく、口角だけを上げていた。

笑顔とも言えない表情。

それがふいに無になって、唇が震えた。


「3日前…、祭りの日はごめん」


顔を合わせて最初の言葉はこれだった。

ホントだよ。

突然、手を離して、元カノのもとに駆け寄るってなに?

それから3日も連絡とれないってなに?

名前を呼ぶってなに?

……今の彼女の名前は呼ばないくせに。


「……ホント、だよ…っ」


言葉は途切れ途切れに、心の断片しか表さない。


「あたし、あのまま一人で家に帰ったんだからね~!? 途中で足、痛くなっちゃうし、浴衣もはだけちゃうし、それに……」

「夜道だったのに、本当にごめん」

「…………っ」


分かってるなら、分かってたなら

どうしておいてったの?

どうして先生を選んだの?


「それにこの3日。ずっと連絡しなくてごめん。……ちょっと携帯を触れる状況じゃ、なくて…」


さっきから、ずっと。

胸がズキズキしている。

その言葉の一つ一つが、どれだけあたしを傷つけるのか。

ふっと顔を背けて、安堂くんに言った。


「で、話って何なの?謝るだけじゃ全然分かんない」


あたしが悲しかった分だけ、不安だった分だけ、安堂くんを傷つけたくなった。

ずっと待ってたんだよ。

ずっと電話したんだよ。

安堂くんの行動、彼氏として、最低だよ。

零れそうになった涙は、まばたきでねじ伏せた。


「……先生が、重体なんだ」


その言葉に、空気が変わった。