そして今。 大嫌いな、病院。 この独特なにおいに吐き気さえ覚える。 病院には悲しい思い出しかない。 大切なあの人が去っていった、記憶しか―――。 オペ室のドアが開き、中から医者が出てきた。 「ご家族の方ですか?」 待っていたのは俺一人。 医者が辺りを見渡している。 あの時、俺の傍にいてくれたのが、絵梨だけだったように、 今、絵梨の傍にいてやれるのも、俺だけしかいない。 「……はい、そうです」 真っ直ぐに医者を見つめて頷いた。 何かが再び動き出した、瞬間だった――。