―――だから。
絵梨の赴任校と、俺の入学校が一緒だって分かった時、俺は一人浮かれていた。
絵梨は困った顔をしていた。
学校では、絶対に話しかけないで、と言われた。
でも、そんなこと、できるはずがない。
バレない自信があるから、と、英語科の準備室を訪ねる俺に、絵梨が言った。
「ここじゃ、いつバレる分からないから、屋上に来て」と。
開いていないはずの屋上。
半信半疑で向かうと、屋上の鍵を持った絵梨がそこで待っていた。
だけど、呼び出されたのは最初の数回だけ。
学校では、素っ気ない絵梨にイライラが募った。
鍵が落ちてましたと言って、俺が鍵を返すからと絵梨から借りたことがあった。
その時、スペアキーを作った。
絵梨が呼びだす時にしか会えないのが嫌だった。
俺からも誘いたいし、来てほしかった。
絵梨は俺が待ってると分かれば、来てくれる。
そういう性格だ。
俺はそれに、たぶん…。
いや、絶対。
甘えていたんだと思う。
高校生になって初めての秋。
付き合って2回目の秋頃から、徐々に二人の距離が離れて行った。
俺はそれに気づいていたけど、気付かないふりをした。

