哀愁漂う、安堂くんの瞳に見つめられ、あたしはめちゃくちゃ惨めだった。


「それに、女同士の慰める合いって見てて滑稽」

「こ、コケッ…!?」


今日はトコトン、機嫌が悪いらしい。

あまりの暴言に、ニワトリの鳴き声がついて出た。

いつもなら、ここで鼻で笑うくらいの笑顔(…とも呼べない笑顔)を見せてくれる安堂くんが、今日はそっぽを向いて知らんぷり。


(意味、わかんない!!)


ムカついて、あたしは勢いよく立ち上がった。

安堂くんの足元に置いてあったお弁当箱を握りしめ。


(誰の為に毎朝早起きしてると思ってるんだ!!)


屋上を後にしようとした。

――のに。


「……なによ」


安堂くんがあたしのスカートの裾を握っている。

こういう時の安堂くんは反則だ。

捨てられた子犬のような、寂しげな瞳であたしを見るから。


「……メ」

「……!」


行っちゃダメ、とか可愛いこと言っちゃう!?

そのお人形みたいな顔立ちで、しかも教室じゃいつもひょうひょうとしているくせに。

二人きりになると、安堂くんは意外と寂しがりやの甘えん坊だ。

もう数週間前だけど、安堂くんはあたしの肩で泣いたことだってあるんだ。

ちょっとだけ胸の奥がキュゥ~ンとして、だけどそれを隠して、あたしは偉そうに腰に手を当てる。


「ど、どうしても行って欲しくないって言うんなら?ん、行かないであげても、ん、いいけど?」


偉そうにまぶたを閉じて、お姉さん気分。

甘える安堂くんは、ちょっと可愛い。

泣き顔、ちゃんと見とけば良かったな。

あの後、気が付いた時には目元が少し赤いだけで、いつもの無表情な安堂くんに戻ってた。

あの日から、なぜだか一緒に放課後を過ごしてる。

ホント、なぜだか。


「ぅわっ!?」


しかし次の瞬間、びっくりして声が出た。

顔の目の前に手が差し出されていた。