その日は咽かえるような暑さだった。

昼すぎに起きて、不快感に顔をゆがめながら、クーラーのリモコンを触った。

珍しく、父さんが家にいるのが分かった。

こういう時は部屋から出ない。

いつの間にか、俺の中に沁みついたルールだった。

しばらくして、家を出ていく音が聞こえ、俺ものっそりと体を起こした。

煙草が切れてる。

それに頭もガンガンする。

飲み過ぎた日の朝はいつもこうだ。

体には知らない香水のにおいが染み付いていた。

簡単にシャワーを浴びて、外に出る準備をした。

毎日、特にすることもない。

行くあてもない。

だけどこの家にいるよりは、ずっといい。

この家は空っぽだ。

何も、ない。

愛も絆も、思い出さえも。

そういう思いを捨てるように、俺は玄関のドアを開けた。


「キャ…ッ!!」


開けた瞬間、何かにぶつかった。

………女?

目の前に、知らない女。

見た目、高校生くらい。

いや、高校生にしては化粧気もないし、髪も真っ黒だ。

眉を顰めてその女を見た。

女はこの暑さのせいか、小さく頬を染めていた。


「あたし、今日からこちらでお世話になります、美坂絵梨と言います!よろしくお願いします!!」


ガバッと頭を下げる。

全く話が見えなかった。


……親父の愛人?


「親父なら、いないよ」


俺は玄関の鍵を閉めながら、その女の方は見ずに言った。