「――――………っ」


あたしの横を、何かが、そのまま下へと落ちて行った。

聞こえてきたのは、高い悲鳴。

それも、1つじゃない。

気がつけば、階段の下。

まるで人形みたいに、横たわった人が一人。

階段下にいた人たちが、悲鳴をあげていた。


「せ、せんせ…っ」


「――絵梨…っ!」


隣から、その声が響いた時、あたしのが時間が全て止まった。

あたしの手から、その手は離れていた。

階段を駆け降りる。

頭が、全てが、ついていかない。


「絵梨…!おい、絵梨!」


その人を抱きかかえる。

…名前を、呼ぶ。

大混雑した中に、救急車のサイレンが響く。

担架が用意される。

その人の頭から血が、流れている。


「知り合いの方ですか?ご同乗願えますか?」


救急隊が訊ねる。

それに、頷く。


全てはまるで、パラパラマンガみたいに切り取られて、目の前に並べられていたようだった。

サイレンと共に、消えて行く。

あたしのことなど振り返らずに消えていく。

病院は、嫌いだ、って言ったのに。

あたしだけだ、って言ったのに。


――――あたしは一人、まばたきもできないまま、その場に取り残されていた。