それからのそのそと服を正した。
あたしの軽率な一言が、安堂くんを怒らせた。
二人の関係を否定した。
もちろん、そういう意味じゃなかった。
だけどあの言葉は、今のあたし達は意味がないものだと言ってしまったも同然だった。
そんなこと、思ってない。
ただ、そういうことするはずないでしょって笑う安堂くんが悲しかった。
それだけが全てじゃないって頭では分かっているのに、心が泣いていた。
あたしの望みはただ一つ。
安堂くんに一番近い、存在でいたい。
あれから、この家は空っぽになった。
ひんやりとした冷気があたしの体を包みこみ、物音ひとつしなかった。
安堂くんはあのまま、家を出てしまったのかもしれない。
物音もしなくて、ただぽつんと。
広い空間に置き去りにされた。
痛いくらい静かな空間に、零れるのはあたしの涙。
哀しくて、辛くて。
だけど一番胸が痛くて。
自分の放ってしまった言葉に、自分が一番傷ついてる。
そっとリビングを出た。
安堂くんの部屋の前を通ったけど、そこにいるのか分からなくて声をかけられなかった。
かけたところで返事をしてくれるのか、それを考えるだけで辛くて。
持ってきていた手帳を1枚破って、手紙を書いた。
そういう意味じゃなかったってことと、ごめんなさいって言葉。
今、あたしには、安堂くんを好きと言える資格があるのか分からなかった。
だからその言葉は、書いて消した。
その紙切れをドアの隙間に挟んで、あたしは玄関へと歩いた。
「帰るの?」
靴を履こうと、玄関にしゃがみこんだ時、後ろから安堂くんの声がした。
驚いて振り返ると、ドアの前、壁に寄り掛かって立っている安堂くんがいた。
「黙って、帰るの?」
「……だ、って…。一人にさせて、って…」
「だからって黙って帰れなんて言ってないよ。“ごめんなさい”は顔を合わせてするから意味があるんじゃないの?この紙きれ、何?」

