「片付けちゃって…いいの?」


言葉が脳を経由していない。

思ったまま、衝動的に、全てを言葉にしている。


「…どうして?」

「だって…!」


だって。

今度は言葉が続かない。

浮かんでくる言葉達がどれも途中で消えてしまう。

もしかしたら今もまだ、安堂くんはお母さんの死を乗り越えられていないのかもしれない。


「ううん、なんでも…」


だから今も、病院が苦手なんだ。


「それなのに、この前は…、ありがとねっ!病院まで来てくれて、…わざわざ、病室まで来てくれて」


安堂くんの顔は見られなかった。


「小林じゃなきゃ、きっとあそこまで行かなかったよ」


俯いたままのあたしの頭を、安堂くんがぽんぽんと撫でた。


「あんなおかしな理由で病院送りになる人、小林以外にいないよ」


顔をあげると、安堂くんは少しだけ意地悪そうに、でも優しく笑っていた。

その一言だけで、嬉しくなっちゃうくらい、あたしはもう、安堂くんに落ちている。


「ほんとに、あたしだけ?」

「小林くらいじゃない?女の子には多いのかな?」

「じゃなくて!」


拳を握って安堂をくんを見上げた。


「その前!」


赤らんだ顔で聞くあたしに、安堂くんはもう一度言ってくれた。


「小林だけだよ」


たったそれだけで、天にも昇る気持ちになれる。

えっちがなくたって、特別なら幸せ。

大切なのは気持ちであって、体じゃない。

体だけで繋がった、空っぽの関係よりも、ずっとずっと今の方が幸せだよね?

彼の瞳があたしを映す。

この瞬間が、何より幸せ。

いつになく上機嫌になったあたしに、安堂くんが優しい笑顔を浮かべてくれた。

その笑顔に何だかくすぐったい気分がして、あたしは小さく視線を逸らした。


「まだもう少し先だけど、大花火大会、一緒に行かない?」


未来を繋ぐ、約束。

特別の次に、嬉しい言葉。


「行く!」


あたしはすかさず返事をした。


「た、楽しみにしててね!」


何を、って今はまだ内緒だけど。

夏祭りは、絶対、浴衣を着るって決めてたんだ。

多分この言葉だけで、安堂くんは分かってるかもしれないけど。

めいいっぱいおしゃれして、がんばるんだ。

いつまでも特別な存在でいたいから。

未来を繋げ続けていたいから。


「あっ、お皿のこと忘れてた!!」

「走ったら、危ないって」

「きゃあ!!」

「ほら」


あたしは、浮かれていた。