……写真立て。

この家に一つもないのが不思議だと思っていたものだ。

こういうのは見ない方がいい。

ここに入れてあるということは、見ないから片付けたわけだ。

もしくは、見られたくないから。

そう思うと、心に反して体が動いてしまう。

ダメだ、と心は叫んでいる。

だけど、ダメだ。

知りたいって欲望が、体だけじゃなく心まで侵食し始めている。

二人の間にある、見えない壁。

それはいったい何なの?


「……何か、面白いものでも見つけた?」

「!!!」


写真立ての中のその笑顔を瞳に捉えた瞬間、いつの間にか真後ろに安堂くんが立っていた。


「こ、これは…っ」


言葉に詰まって、咽る。

これは、に続く言葉が見当たらない。

掃除機を取った時に、棚の上から落ちてきた、って嘘をつくべき?

不可抗力で拾い上げただけなんだ、って。

今、完全に手にしているそれを、安堂くんの瞳も捉えていた。


「…ここに入れてたの、忘れてた」


だけど怒ることなく、安堂くんはその写真立てを手に取った。

聞いちゃいけないかもしれない。

でも、心は聞こうとしている。

聞きたいって思ってる。


「……その人、ってもしかして…」

「おふくろだよ。前話したおふくろ。数年前に病気で亡くなったんだ」

「……それで、病院嫌いになった…?」


ナッチに聞いた話。

切り出せずにいた。

どうやっても、話題にすることは出来なかった。

安堂くんは写真を見つめたまま、口を開いた。


「よく、知ってるね。確かにあんまり病院は好きじゃないかな」


写真立てを手の中で軽くバウンドさせて、再び物置きにしまおうとする。

あんなに素敵な笑顔なのに、ましてや写真立てに入れるほどの写真なのに、どうして今、ここにあるの?

ここにしまおうとするの?