それからの日々も、同じような時間が進んでいた。
「わっ、びっくりした!」
「ごめん。ちょっと手が滑った」
いつものように、安堂くん家で勉強会をしていると、キッチンからお皿の割れる音が響いた。
「大丈夫?手とか切ってない?」
「へーキ。うわ、思ったよりも飛び散ってる」
「掃除機持ってこようか?」
「場所、分かる?」
「トイレの横の物置」
「じゃ、お願い」
「りょうかい」と片手をあげて、あたしはリビングのドアを開けた。
海に行ったあの日からも、あたし達は変わらずの距離を歩いていた。
つかず、離れず。
多分この言葉が一番合うと思う。
恋人同士なのにね。
つかず、って言葉がついちゃうんだ。
あたしはもっと近づきたいけど、安堂くんはそうじゃないみたい。
キスはする。
唇は触れ合う。
だけど前みたいな、深いキスはない。
舌が絡むような、キスもない。
理由を考えたけど、どれも悲しくなるようなものばかりで、あたしは考えることをやめた。
傍にいられるならそれでいいし、安堂くんが笑いかけてくれるならそれでいい。
…まるで、片想いみたいだ。
って、頭の中に浮かんできたけど、それもすぐさま掻き消した。
片想いじゃない。
あたし達は付き合ってる。
えっちのない恋人同士なだけ。
悪いことじゃない。
…きっと。
「掃除機、掃除機、っと」
廊下を出て、トイレの横の物置のドアをスライドさせた。
全てがクローゼット風になっていて、ドアはくの字型に開く。
「あった、っと」
掃除機を手に取ると、ふいにそれが視界の中に入ってきた。