桜田くんがしおらしく、まじめなトーンで言った。
そのことに気がついた人は、この武道館の中に何人いたかは分からない。
でも、クラスで見せる、バイト先で見せる、いつも見せるあのお茶らけた桜田くんとの違いに、あたしは足が止まってしまっていた。
『いわゆる、ラブソング、ってやつで…』
あの桜田くんが少し恥ずかしそうに、話している。
「……聞いてく?」
動きの止まったあたしに気がついて、安堂くんが言った。
ハッとして、安堂くんを見上げる。
今、自分がどんな顔をしているのか、分からない。
何だか、胸が苦しくなったように感じたのは、その曲をただ説明するだけで、桜田くんが切なそうだったから。
ただ、それだけなのに、何だか安堂くんの顔が見られなかった。
薄暗い部屋の中だから、きっと、バレてはいないと思うけど――…。
「い、いいよっ!もう、行こう」
俯いて、安堂くんの背を押した。
でも、それに安堂くんが同意しなかった。
「……気になるなら、聞いてけばいーんじゃない?」
「―――っ」
この薄暗い部屋の中、バレていたことに狼狽した。
気になる、なんてそんな大それた感情ではない。
ただ、少しだけ胸が苦しくなっただけ。
いつもバカやってる男の子が、少しだけ潮らしかったから、ただ、ちょっとだけ――…。
「うそ。俺が興味ある。サクラダの作ったラブソング、聞いてみたい」
安堂くんはそう言うと、入口の傍の壁に背をつけて立った。
「だから、一緒に聞いてよ」
安堂くんにそう言い切られて、あたしはそれに黙って従った。
安堂くんが本当に聞きたいのかは分からない。
だけど二人で静かに、桜田くんのラブソングを聞いていた。
その曲を歌う桜田くんは、その歌詞を書いたという桜田くんは、あたしが知っている桜田くんではなかった。
普段の桜田くんからは想像つかないくらい、真面目で一生懸命で、一途な想いが溢れていた。
聞いてるだけで胸が熱くなって、人を想う愛おしさを思い出させてくれる、そんな曲だった。

