お好み焼きの具材が混ざり切った頃、もみくちゃのボロボロになった安川くんが帰って来て、ナッチのテンションは上がった。

どうやら相当な倍率というのは本当だったらしく、1枚ゲットして帰ってきるだけで地獄を見たという。

ナッチはそれを掴み、薄情にも8組の方へと消えて行った。

なのに、あたしときたら――…。

何故かみんなに交代時間を引き延ばされてばかりいる。

彼がライブをするから客寄せしなきゃいけない、とか、今日は手が腱鞘炎になったからヘラでひっくり返せないんだ、とか…。


(あたし、もしかして、みんなに邪魔されてる…!?)


考えて、サーッと血の気が引いた。

あたしが行く頃には、安堂くんは安堂くんは……っ。


(ムンムン女子にネチョネチョに~~~~!!!)


「お好み焼き、1枚ください」


ヘラを握りしめて、頭を抱えていると、目の前のお客にそう言われた。


「うっ、は、はいっ…!」


慌ててヘラでお好み焼きをひっくり返した。


「上手いじゃん」

「ど、どーも…」


褒められても全然嬉しくない。

あたしは今、こんなことしてる場合じゃないんだってば。

彼氏が、彼氏が…、安堂くんがぁぁぁ……!


「じゃ、それと一緒に、ください」

「……へ……、」


お好み焼きの袋じゃなく、手首を掴まれた。

そこでその人の顔を見た。


「………っ!!」


目の前に、立っていた、お客は……。


「…あんっ……!!」

「しー。バレたら面倒なことになる」


口を押さえられたまま、あたしはコクコクと頷いた。

目の前に、安堂くんがいてくれた。

しかも、キャップと黒ぶちの眼鏡をかけて、変装までして。


(でもその顔もかっこいい~~~~!!)


「行くよっ」

「あっ…!」

「あっ!小林!?」


男子があたしの名前を呼んだけど、あたしは振り返ることなく、その腕に引っ張られた。