『俺は寝る』


桜田くんはそう言うと、ポイッと教科書を渡してくれた。

そしてそのまま机に俯せに寝始めた。

それは景山先生がやってきてからも同じで、ホントに…この人…。


「小林ぃー!隣のそいつを起こせーー!」


先生があたしの名前を叫んでいる。

これじゃ教科書を借りた意味がない。


(あたしが景山先生に怒られてるみたい…)


心の中で泣きながら、シャーペンの後ろでツンツンと桜田くんの腕を突いた。


「桜田くん、起きて。先生が怒ってるよっ」


金色の髪は光を浴びて、より一層輝いている。

その金髪の隙間から、通った鼻筋と、安堂くんよりちょっと短いまつげが姿を現した。


「…ん…」


黙っていれば、女の子が騒いじゃうくらい整った顔をしている。

オシャレだし、…けっこー優しいし。

なのに口を開けば―――。


「人の寝顔でいろいろ想像すんの禁止」

「っ!?」


すぐこんなことを口にする。


「なんのことよっ!?」


桜田くんはふわーっと気伸びしながら、それに答えた。


「俺の寝顔見て、あらアンドーくんの寝顔もこんなに愛らしいのかしらっ、――って想像してただろ」

「し、してないしっ!!」

「うそつけ~?顔がぽわーんとしてたぞー?……あ、それともあれか?あの時のアンドーくん、こんな顔で寝てたなぁ、とか?」

「あの時!?」

「えっちの時」

「なっ!!! あたし達はまだそんな…っ」

「え、うそ。お前らってまだ…」

「さ~~く~~ら~~だ~~~、こ~~ば~~や~~し~~~っ」

「―――――っ!!!!」


低い低いその声にあたしは体を固くする。


「放課後、二人で職員室に来ーいっ!!!!」

「っ!!!」


…桜田くんと一緒にいると、ロクなことがない…。