その切なそうな横顔に、あたしは胸が痛んだ。


「ま、待って…!安堂くん、ちゃんと教えて…っ」


安堂くんの腕を掴んだ。

安堂くんは視線を落としたまま、こちらを見てくれない。


「…いーよ。小林、困らせちゃうだけだから」


視線を逸らしたまま、安堂くんは悲しそうに笑った。

箱を持ち上げて、さっきのピアスを見る。


「このピアス、けっこー高いんじゃない?」

「……、」


そんな、悲しそうな顔で笑わないで。

視線を逸らしたままで、いないで。

鼻の奥がつんとして、でも、腹も立って。

あたしは表現できない感情に襲われていた。


「…ちゃんと、教えてよ…!言ってくれないと分かんないよ!安堂くんのそんな顔、見たくないよ…っ」


じりじりと浮かんでくる涙を精一杯こらえて、必死に訴えた。

それでも安堂くんは視線を逸らしたまま。

だけど静かに笑った。


「……ほんとのところ、自分でもよく分かんないんだ。どうしてこんなこと思うのか、…思ったのか。何か俺、小林のことになると全然余裕ないみたい」


そっと、安堂くんがあたしの頭を撫でた。


「小林が俺のためにバイトまでしてくれてるって分かって、嬉しいはずなのに、俺、全然嬉しくなかった。
 そんなことしてもらうよりももっと一緒にいてほしい、って。
 ……他の男と話なんかしないで、…って思った」


紡いでくれるその言葉に、あたしは堪えていた雫がぽとりと落ちた。


「いつの間にか、俺、小林のことばっかになってる。……自分でも、怖くなるくらい。
 …ね?こんなこと言われても困るでしょ?」


安堂くんは左胸を押さえて、小さく、悲しそうに、笑った。

あたしは涙でいっぱいになった顔を、ふるふると振った。


「………そんなこと、ないよ……っ」


聞こえるか聞こえないかの、小さな声でしか言えなかった。

嬉しいよ。すごく、嬉しい。

涙でいっぱいになって。 声さえ出ないくらい、いっぱいになって。

そんなあたしを、安堂くんはそっと抱きしめてくれた。