ナッチに背中を押され、あたしは屋上を目指した。

こんなに重い足取りは、いつぶりだろう。

毎日あんなに楽しみにしていたのに、今日は全然楽しみじゃない。

どうしよう。

桜田くんの言った通り、あのピアスが先生にもらったものだったら。

色褪せるくらい、つけてることを忘れちゃうくらい、安堂くんにとって当たり前のものになっていたのなら…、どうしよう。

それにあたしは何て聞けばいいんだろう。

聞いてしまっていいのだろうか。

聞いてしまって………。


「小林?」

「!」


屋上で、お弁当を広げる安堂くんに名前を呼ばれた。


「え、え、なに…!?」

「なに、はこっちのセリフ。どうしたの?」


安堂くんの瞳があたしを映している。

その瞳の隣、ぽっかりと開いた1つの穴。

言葉にならなくて、あたしはゆっくりとその場所を指差した。

今日は何もなくなった、その耳。

安堂くんは無言の質問を、理解してくれたらしい。


「…ああ」


そう言って、静かに目を伏せる。


「あれは別に…」

「べつに?」


じゃあどうして、目を伏せるの?

やっぱり、昔の女(ひと)に、…先生に、もらったものなの…!?

――でも、そんなことは聞けなくて。

あたしはお腹の前で震える手を押さえながら、指先を掛け合わせていた。


「何ともないことなら、教えてくれても……よくない…?あたし、もう、彼女なんだし…っ」


そう。

今の彼女はあたしなんだよ。


「それとも、あたしには……言えないこと…?」


泣きそうだ。

考えただけで泣きそうだ。

やっぱりあのピアスは先生にもらったものだったの?