「……遅いよ」


ドアのすぐ横に寄り掛かって、腕を組んでいる安堂くんがいた。


「な…!」


言い切る前に腕を引かれた。

引かれる度にびっくりする。その細い腕のどこに、こんな力があるんだろう。

急に腕を引っ張られて、屋上に引きずり出された。ドアが音を立てて、勢いよく閉まる。


「他の人に見られたら面倒だから」


それは、どっちの意味だろう。

あたしと一緒にいるのを見られたら困るってこと? それとも――…。


「屋上が立ち入り禁止って知ってるよね?」


あたしを覗き込むようにして、安堂くんが言った。サラリ、と、太陽に透けて明るく見えるその髪が音を立てた気がした。


「も、もちろん…っ」


そう返事をしながら、掴まれた腕をさりげなく外す。

ドキドキすることはないはずなのに、透明感溢れる綺麗な顔に、心拍数はグングン上昇中。

安堂くんとは逆方向で「…はぁ~…!」と大きくため息をついて、真隣りにいる安堂くんと向き合った。