次の日。
「数学、分かんないとこってどこ?」
昨日の夜、勇気の勇気のそれまた上の勇気を振り絞ってメールをした。
ベタだけど、数学で分からない所があるって言って、会う約束を取り付けた。
安堂くんは何も気付いていない様子だ。
いつもの通り、あたしを家に招き入れてくれて、リビングで二人、数学の参考書と向き合っていた。
「こ、ここ」
昨日の夜、ピカピカに磨いた爪をさりげなくアピール。
今日は髪も巻いてるし、ちょっとだけ肩も出てるし。
それになんて言ったって。
「この前、やったとこじゃん」
テーブルの上、気だるく頬杖をつく安堂くんにちょっとでもアピールするように腕と腕を寄せていた。
「わかんなくなったの?」
呆れる安堂くんに、こくこくっと頷いた。
今日はいつも以上に、グロスもたっぷり塗ってきた。
安堂くんのあの言葉を思い出して、会う度に付けてきているのに、あの1回っきり何もない。
(…ピーチの香り、してるのに)
やっぱり安堂くんにとって、あたしって友達止まりなの?
いつものように思考がマイナスに傾いて、あたしはフルフルと頭を振った。
ダメダメ!
今日から積極的に、ちょい大胆でいくんだから!
「………聞いてる?」
拳を握るあたしを隣の安堂くんが呆れて見ていた。
「きっ、聞いてるよっ」
だけどその心は、安堂くんを目の前にすると心の隅に隠れちゃう。
だって、安堂くん、かっこよすぎるんだもん。
もちろん、付き合う前から顔はイイとは思ってた。
だけど恋したら違う。
好きになったら全然違う。

