ちょっとだけセンチメンタルに浸りそうになっていたあたしに、安堂くんが握った拳を差し出した。


「これ」

「なに…?これ…」


その拳の下で手を広げると、そこにポトッと丸い物体。

あたしはそれを確認して、ゆらゆら、ゆらゆらと狐に摘まれたような顔で安堂くんを見上げた。


「さっきのお詫び」


何の、お詫び?


「こんなもの、何で欲しがるのか全然分かんないんだけど」


あたしの手の平にそれを乗せると、安堂くんは背を向けた。


「それに小林、“だるまさんが転んだ”下手過ぎだしね」


そう言って、安堂くんは微かに笑っている。

安堂くんは、ジョーダンって言ったのに、わざわざ外して持ってきてくれたの?

手のひらに乗っかるソレを見て、あたしの胸はきゅうっと鳴った。


「今度はそれを誰かに取られて面倒なこと起こさないでよ」

「え?」


胸の傍、抱き掬うように握ったあたしは顔を上げる。


「新しいボタン、小林がつけてね」


安堂くんはそれには返事をせず、無表情にそう言った。

それってまた、新学期までに会えるってこと?


「あ、電車」


安堂くんが駅の中を指差した。

春休み、何だかイイことが起こりそうな予感。

電車に乗って、さっそくナッチにメールする。


[今から帰るよ]


送信後、数秒で返事。


[遅いわよぉぉぉ!!!!]


その一文だで、携帯片手にそわそわしているナッチの姿が目に浮かんだ。

返事をする前に、またまた受信。


[こんなに遅いってことは上手くいったの!?]


いつもはデコメまみれなのに、今日は普通の記号だけ。


[…告れなかったけど、ボタンは貰ったよ]


そのメールに、


[写メでいいから、あたしにもちょーだい!!!]


ってメールが来て、笑ってしまった。


きっとこの春休み。

忘れられない春休みになりそうだ。