去年の終了式の時も、すごかった、となべっちに聞いていたけど、ホントに“それ”は凄かった。


「あ、あの、安堂くん…!よければボタン、下さい…っ」


(卒業式みたい…)


終了式からの帰り道、大掃除の時、安堂くんが廊下を歩けば、このセリフ。

なのに安堂くんはそれごと全部無視して、「ごめんね」とか「あげない」とか、そういう返事すらしなかった。


(な、なんて男…)


「その点あたしはきちんと向き合ってもらえたのよ」

「!」


箒を握って放心していたあたしの後ろから、その声は聞こえた。


「ナッチ!!」

「やほー!安堂くん、やっぱり今日も絶賛カッコイイね!」


ナッチはあたしに会いに来たついでに安堂くんを眺めていた。

…いや、安堂くんを眺めにきたついでにあたしに話し掛けたのか?


「安堂くんとうまくいってる?」


ナッチはあたしの顔を見る度に、こっそりと耳打ちをする。

最初はどうしていいのか戸惑ったけど、ナッチはカラッとしていた。

大好きだったし、今でも好きだけど、もうそれ以上は望んでないという。

何だか横入りしてしまったようで気まずいあたしに「頑張って、ゲットしてよ!安堂くんの彼女になるの、知枝里なら許せるから!」と背中を叩いて笑ってくれた。


「…全然。フツーだよ」

「でも今でも屋上で会ってるんでしょ?」

「それは……うん」


結局あの日、屋上で、またお弁当係に任命された。


「じゃ、祈る必要もないかな?」

「なにを?」

「来年のクラス。同じクラスも今日で終わりでしょ?」


……………、


(あ゛ーーーーーーーーーっ!!!)


涙目で大口を開けたあたしに、ナッチが呆れる。


「気付いてないと思った。もう、告っちゃったら?」

「え゛!?」

「案外うまくいくんじゃない!?」

「え゛!?」


ナッチの流し目に、まばたきを速めて向き合った。