どうして安堂くんは、あの場に来てくれたのか。
あたしの手を握ってくれたのか。
今、ここに連れて来てくれたのか。
それにあたしの記憶が間違ってなければ……、
(“返して”って言った、よね!?)
コンクリートの床を見つめながら、スカートの裾を握り締めた。
「ね、ねぇ?安堂くん…!? どうしてさっきは渡り廊下に…」
あたしを“返して”って――…、
ぐるぐると、まばたきも出来ずに上擦ったあたしを、安堂くんが遮る。
「小林ってさ、人に脅されやすい?」
「………………へ?」
フェンスに寄り掛かり、膝を立てて座った安堂くんが言った。
「……へっ!? お、おど…っ!?」
安堂くんが、ぺろり、とそれを差し出した。
「あ、あっ、それ…っ!!」
「有野奈津子が持ってたよ。あの人にあげたの?」
「ち、違うよっ」
………って、
「あーーーーーーーーーっ!!!」
思い出して、発狂した。
「ナッチは!? ナッチとはどうなったの!?」
あたしは自分のことにいっぱいいっぱいになっていて、友達のことを忘れていた。
ナッチの恋に協力していたはずなのに、気付けば自分が好きになっていた。
友達の好きな人を、好きになっていた。
青ざめるあたしに、安堂くんが言う。
「有野サンとは何にもないよ。丁重にお断りしただけ」
「……!」
そう答えた安堂くんに、今、ホッとしている自分がいる。
友達の数年越しの恋が実らなかったというのに、あたしはひどい女だ。
「そしたら、これ、渡された。ごめんね、って。あとありがとう、とも言ってたな。小林、何したの?何されたの?」
フェンスに寄り掛かり、こちらに横顔を見せる安堂くんが静かにあたしに影を作った。

