「手なんか繋いでなにしてんだよ…」

「えっ」

「……何?」


驚くあたしなどお構いなしに、安堂くんは歩き出した。

触れ合って、分かった。

今、この瞬間、どれだけ嬉しくて心が震えているかってこと。

繋がったこの手が嬉しくて。

安堂くんがあたしを呼んでくれたことが嬉しくて。

嬉しいのに、その背中を見つめると胸が苦しくなって、切なくなって。

なぜか涙が込み上げてきた。


「―――……っ」


だから繋がってる手に力がこもって、足が動かなくなって、安堂くんもそれに気付いて、こちらを振り返った。

涙の向こう側。

安堂くんが怪訝そうな顔をしている。


「……邪魔した?」

「ち、ちが…っ」


ひっく、と上ずる喉を堪えて、頭を振った。


「…付き合うことにしたの?」


すぐさま頭を振った。

5時間目を告げるチャイムが鳴り響く。

でもまだ、この手を離したくなかった。

繋いだその手に力がこもる。

授業が始まる音がする。


「………るか」

「…え?」

「5限、サボるか」


目の前で無表情のこの人が、抑揚なく言っている。


「え!? 何言って…!」

「だってこの状況で、教室帰ったら大変なことになるよ」


安堂くんは左手で、二人の間を指差した。

そこにはしっかり握られた、…二人の手。


「ひゃ、ひゃああ…っ」

「逃げるのはナシだよ」


目の前の男はひょうひょうと、再びその手に力を込めた。