突然泣き出したあたしを、付き合えないと言ったあたしを、それでも安川くんは受け入れてくれた。


「小林さんて鈍過ぎー!そんなの一言、“やっぱりあの人のこと忘れられないの!”で、いー話じゃん」


渡り廊下から空を見上げて、安川くんがくしゃりと笑う。


「恋の仕方なんて人それぞれなんだから。他人の形に当てはまらなくても、いいんじゃない?自分が感じるままに好きになるってのが、いつの間にか好きになっちゃってた、ってのが恋ってやつなんじゃない?」


感じるままに――…、

いつの間にか――…?


「恋ってね。頭で考えるもんじゃないんだよ。心で感じるものなんだよ! ……ど?名言じゃね?」


安川くんのウインクに、あたしは真っ直ぐに見つめ返した。

心で感じるもの――……。


「ちなみに言うとね、こっちはチョー有名な名言なんだけどね? 小林さん、手かして?」


安川くんがあたしの手を取る。

あたしの手のひらに“恋”と言う字を書き出した。


「恋はするものじゃなく、落ちるものって名言があるじゃん?だから、恋は下に心があるんであって、俗に言う下心とは――…」

「小林」

「――……っ」


真後ろから名前を呼ばれた。

振り返る前にそれが誰だか分かった。

その声に名前を呼ばれたこと。

屋上以外でなかったのに――。


「あ、安堂…!?」


あたしより先に、進路方向だった安川くんが驚いた声を上げた。


「悪いけど返して」


安堂くんは無機質に、無表情にそう言った。


「返すって、え……!?」


その言葉に、安川くんがあたしを見る。

きっとあたしが真っ赤になって泣き出しそうな顔をしていたから、安川くんは驚いて、あたし達の顔を交互に見ていた。


「うそ、もしかして、二人って…!?」


安堂くんはそれには返事をせず、おもむろにあたしの手を引っ張った。