教室前の廊下にはいつくばって、声を漏らした。

予想では、教室の傍で落としたんじゃないかと思うんだけど…!


「小林…さん?何やってんの?」


後ろから声を掛けられて、咄嗟に背を正した。


「あっ、安川くん…!!」

「わ、名前覚えてくれたんだー?うれしー」


安川くんは小首を傾げてにこりと笑った。

なべっちが言った通り、髪は長めで、安堂くんよりもずっと明るい。

制服も、安堂くんはちょっと着崩しているだけだけど、安川くんはちょっと……着崩し過ぎだ。


「なに探してるの?」


人懐っこい笑顔に、あたしもつられて笑顔になる。


「お、お守りを…」

「お守り?どんなやつ?」

「ピンク色の恋愛成就の…」

「恋愛成就?」

「―――――、」


しまった…!と思った時には遅かった。

あたしはいつも、口を滑らせる。

どうしよう、と安川くんを見ると、安川くんはあたしの隣にしゃがみ込んだまま、口を開いた。


「もしかして好きな奴いるの?」


その言葉に、まばたきを速めた。


す、好きな人―――。

パッと浮かんでくるのは安堂くんだけど、あたしはこのことに自信がない。

安堂くんとは色んなことがありすぎたから、ただ、浮かんでくるだけなのかもしれない。

なべっちや、安堂くんの恋愛論を聞いていたら、好きって何なのか、だんだん分からなくなってきた。


「それは――…」

「でも、もう諦めたんでしょ?」


あたしの言葉を遮って、安川くんは変わらぬ笑顔で言った。


「えっ…!!??」

「ごめん。どうしても気になって、川鍋にしつこく聞いちゃったんだ。諦めたならさ、友達からでもいいから考えて欲しいんだ。この前は俺、いつまでも待ってますとか言っちゃったのに、これを知ったらどうしても言いたくなって…。ごめんね」


安川くんは顔の前で手を合わせて、片方の目を瞑っていた。