咄嗟の機転に、安堂くんは呆れた顔をする。

危なかった…!

今、あたし、“あたしとか”って言おうとしなかった!?


(絶対鼻で笑われる…!)


心の中の冷や汗を拭きながら、お弁当の残りを頬張った。


「……ねぇ、小林」


すると、安堂くんが置いていたあたしの学生鞄を指差した。


「…お守り、どうしたの?」


その言葉で思い出して、あたしはお箸を置いた。


「だっただった!ほら、昨日の大雨で鞄までびしょ濡れだったじゃない!? お守りも一緒にびしょ濡れになっててさ…、しかも革と触れ合ってたところが汚れちゃって…」

「捨てた?」

「す、捨てるわけないじゃん!お守りなのに!」

「恋愛成就のお守りだもんね」

「そうだよ!」


汚れても捨てないよ。

たとえ彼氏が出来なくても捨てないよ。


「ちゃんと洗って、ハンカチに包んで持ってきたんだけど…」

「お守り、洗ったの…?」

「だって汚れが取れなくて…。あ、もうとれたのよ!綺麗になったんだけど!」


(って、ほんとはちょっと残っちゃったけど)


「…あれ?左のポケットに入れたと思ったんだけど…」


ブレザーのポケットの中を掻き回す。


「あれ!? あれ、あれ、あれっ!?」


しかしお守りは、右のポケットにもスカートのポケットにも、中のシャツのポケットにも鞄にも、どこにも入っていなかった。


「……捨てたんじゃないの?」

「捨ててないよっ!電車の中まであったもんっ!」


お弁当そっちのけで、お守りを探した。

安堂くんはそんなあたしに呆れて、鼻を鳴らしていた。

屋上から教室に帰るまでの道のりも汲まなく探した。

休み時間には、教室から靴箱までの道のり。

帰りがけには、落ちているゴミまで全部チェックする勢いで探していた。


――――なのに。


「……ないっ…!!!」