私服になると大学生にしか見えない。
いつも結っている髪も今は下ろしていて、とても長くて綺麗だ。
「あ、やだ。凄いところで会っちゃった」
みとれているあたしに、先生は恥ずかしそうに本を置いた。
バレンタインの本…。
先生、もしかして……。
「…彼氏に…、あげるんですか?」
新しい彼氏、ですか?
だから安堂くんとは別れたんですか…?
「や…、違う違う!ほら、あたし、前言ったじゃない?別れたって…」
「え…、でも…っ」
今、見ていたのは手作りチョコの本…。
あたしの視線に気付いて、先生は慌てて言葉を付け足した。
「癖でね…。元カレってこーゆー甘いの好きだったから」
先生のその、はにかんだような、ちょっと困ったような笑顔に、なぜか、なぜだか。
…胸がギュッと、苦しくなった。
「じゃ、じゃー…、また明日学校でっ!バイバイっ」
先生はバツが悪くなったらしく、赤い顔のまま、あたしに手を振っていなくなった。
あたしは今、どんな顔をしてたんだろう。
何で今、胸が苦しいんだろう。
ひゅーっと強い北風が吹いた。
もしかしたら先生は、まだ、安堂くんのことが好きなのかもしれない。
あたしは子どもで恋もしたことがないから、別れたのは、好きって気持ちがなくなったからだと思っていたけど、
大人には、もっと複雑な事情があるのかもしれない。

