安堂くんは授業中、ぽけーっとしているだけかと思っていたが(普段から無表情なのでそう見える)、意外とちゃんと話を聞いているみたいだ。
内職マニアのあたしからしてみれば、雲の上のレベル。
「安堂くんって頭いーんだねっ。学年で何番くらい?」
「10番くらい」
「えっ!!」
「なに、驚くこと?」
「え、いや、その…」
(本当に頭いいんだぁぁ…!ひゃあ…っ)
今度は安堂くんが言う。
「小林って後ろから何番くらい?」
「真ん中よりちょっと後ろくらいっ!」
膨れっ面で言った。
安堂くんはくくっと笑った。
緊張したのは最初だけで、今では夕方のこの時間が楽しみになっていた。
(頭のレベルも上がってきたし)
勉強教えるのがとても上手だったから、あたしは笑顔で言ってしまった。
『将来先生になったらいいのに』
それに対して、安堂くんは無反応だった。
そこで気がついた。
先生って言葉は、禁止ワードだ。
分かってはいるのに、分かっているのに、本当に学習しない…。
今日は日曜日。
勉強会が終わったので、あたしは街に偵察に来ていた。
勉強を教えてもらったお礼、ってことならチョコを渡せると思った。
(よくよく考えてみれば誕プレも、お守りも貰ってるし…)
失礼な本は部屋の本棚に、ピンク色のお守りは学生カバンにつけていた。
同じ学校で、彼氏が欲しいから。
街のあちこちに特設コーナーが設けられていた。
どこもかしこも赤一色。
そこに群がるのはいつも女の人ばかり。
(本当、男の子ってずるい…!)
確か去年、安堂くんは2桁も後半って誰かが言ってたけど、あの性格だから律儀にお返しとかしてなさそう。
…それに去年は先生がいたわけだし。
特設コーナーに立ち寄り、みんなが見ている手作りチョコの本をあたしも1冊手に取った。
安堂くんのおかげで、料理の腕はだいぶ上達したから、ドンと来いだ。
パラパラとめくっていると、隣で本を広げていたお姉さんからふんわりといい香りがした。
やはり大学生のお姉さまは違う。
タイトな服装を上手に着こなして、胸はあるのに脚は細いし、言うことなしだ。
それにこの人は顔も綺麗……。
「……あっ」
そこで声が出た。
その人がこちらへと顔を向けた。
「………あ、小林さん!」
それは美坂先生だった。
学校での印象とは全然違って気付かなかった。

