巫部凛のパラドックス(旧作)

「えっと、あの……」
 何を話していいのやら分からない俺は多少の焦りとともに、コミュニケーションを図ろうと、言葉を選んでいると、
「本当に一般生徒なの?」
「ああ、校舎内を探索しててたまたま来ちゃったみたいなんだけど……」
「何で、一般生徒がこんなところにいるのよ!」
 何となく説教されているような若干キレ口調で俺を睨んできた。
「いっ、いや、何でって言われても、散歩してただけであって」
 会話が成立したっぽいので、俺も落ち着きを取り戻し、少女を見つめている。背は俺の胸くらいだが、なにより、腰まではあろうかという絹のような髪がものすごく特徴的だ。
「さっきも言ったでしょ。ここは一般生徒が入れる場所じゃないんだってば。何で来ることができたのか説明してちょうだい」
 でも、言葉は使いは乱暴すぎる。
「いや、あの。普通にドアノブを回したらドアが開いたんだけど……」
「はあ、何言ってんの? ここは施錠されていたはずだけど! 本当の事を言いなさい! さもないと……」
 再び長刀を振り翳し始めたじゃねーか!
「本当だってば、普通に鍵が開いてたんだって!」
「まあまあ、お二人さん。そんなにいきり立たないの。ゆきねもいいわね。少し落ち着いたら?」
 再びどここからか声が聞こえてくるのだが、見た感じ、この屋上には俺とこの少女(ゆきねと呼ばれていたような気もするが)しか見当たらない。誰がどこで喋ってるんだ?
「分かったわよ、さくら。でも、ここに一般生徒がいるって少しおかしくない?」
「それはそうだけど、彼は間違いなく一般生徒だわ。気配も一般人そのものじゃない。いい、あなたは集中すると周りが見えなくなる悪い癖があるから、今度から気をつけなさい」
「わかったわよ」
「不貞腐れないの。さて、じゃあここで質問。ゆきねはさっきどうやってここまで来たの?」
「どうやってって、校舎内からここへ通じる階段を上ってきたに決まっているじゃない」
「じゃあ、そのとき、あそこの鍵を閉めた?」
「……あっ……」
「はい、解決。ゆきねがドアの鍵を閉め忘れたおかげで彼が屋上に来ちゃったってわけ。まったく、いつも言ってるでしょ。休む時は防御を固めてからにしなさいって」
「わっ、悪かったわね。いつもはきちんと鍵をしているんだけど……たまたま、そう、たまたま今日に限って忘れちゃったのよ!」
「でもねえ、そのおかげで彼はもう少しでミンチになっちゃところだったのよ」
 ゆきねと呼ばれていた少女がこちらを振り返る。
「だいたいねえ、あんたがこんあ所に来るのが悪いのよ! 立入り禁止って看板が見えなかったの!」
 今度は矛先がこっちにきやがった。
「いやいや、そんなのなかったって。あったら、来てないでしょ」
「本当でしょうね」
 少し目の色が変わったじゃないか。
「本当の事を言うなら今のうちよ。素直に私を探りに来たった言えば、その勇気に敬意を表し、腕の一本位で許してあげるけど、騙した場合は、満足に歩けなくなるくらいは覚悟しなさい」
 どちらに転んでも無傷では帰れないのかよ。
「いやいや本当だって。学校を探索しててたまたま来ちゃっただけなんだ。決して他意はないんです」
「ふーん」
 そう言って少女は俺の目を覗き込んだ。吐息がかかる距離に俺は少しドギマギしちまうじゃないか。
「嘘は言ってないようね。わかったわ。信じてあげる」
「よっ、よかったー」
 どうやら命の危機は脱したらしい。まったく、入学早々死んでたまるかってんだ。
「ん?」
 ここで、やっと冷静になれた俺は、ある事に気づいた。
「なっ、なあ」
「何よ」
「君ってここの生徒なのか?」
 見ればこの少女はこの学校の制服を着ていなかった。
「そんなことはどうだっていいでしょ。いいことを教えてあげる。しつこ過ぎる詮索は命をあっさりと失う原因になるわよ」
 そう言うと、もう俺から興味が薄れたと言わんばかりにソッポを向かれてしまった。やれやれ、とんだ目にあったが、ここは大人しく退散するかねえ。俺は踵を返すが、その瞬間に切られないなよな? と若干の不安もあったのだが、今こうして生きているということは杞憂に終わったって証拠だよな? こんな日はさっさと帰って寝ちまおう。