少女だった。さっきまでフェンスに寄り掛かっており、可愛い寝息をたてていた少女が、空中で両腕を振りかぶり飛翔しているじゃないか。夕日に反射した何かが眩い光を発している。ああ、なんだか幻想的な光景だなと、呆然としながら見守る事しかできい俺と、時間が止まったかのように空中にいる少女。だが、次の瞬間に俺は現実に引き戻されることとなった。
少女は振りかぶっていた何かを俺に目掛けて振り下ろす。その顔は何の表情も読み取れず、まるで蚊を叩き潰すような何でもない動作のようだった。
「くっ!」
少女が振りかざした物が俺に触れようかとした刹那、瞬間的に身の危険を感じた俺は咄嗟に隣の空間に飛び込んだ。着地を考えていなかったものだから、派手に膝を擦り剥いてしまったが、そんな事を言っている暇はない。振り返った俺が目にしたのは、女の子には似合う筈もない長い何かを振りかざした格好のまま片膝をついていた少女だった。
少女は、ゆっくりと首を捻り、床にひれ伏している俺を見つけると、これまたゆっくりと立ち上がって、華奢な体を揺らしながらこちらに向かって足を踏み出した。
「ちょっ、ちょっ」
やっとの思いで喉から振り絞ったが、まったくもって言葉になっていなかった俺の必死の叫び声も少女には聞こえていないのか、特に歩みをやめる気配はない。
俺は、必死になって這い蹲っていた体に速攻で命令し、立ち上がろうと膝を立てると、少女が持っていた物が行き手を阻むかのように掲げられたのだが、目の前にあるそれは紛れもなく日本刀。通常日本刀ってのは七十センチ位だと何かの本で読んだことがるのだが、俺の目の前で鈍い輝きを放っている鋼はゆうに一メートルを越えており、文字通りの長刀だった。
しかも、さっきまで俺が居た場所が結構な深さまで抉られてるってことは、その刀マジもんなのか!
「…………」
少女は無言のまま俺を見下ろしている。その表情は、無表情という比喩がぴったりの何の意思も感じられず、俺をゴキブリや何やらと思っているのかもしれない。何だ? 俺が起こしたのがそんなにマズかったのか? それで不機嫌モードなこの子は八つ当たりをしているだけなんだよな? そうだよな? たのむ、そうであってくれ!
そんな俺の思惑とは裏腹にゆっくりと少女の腕が上がる。なんだこりゃ、もお完全に意味がわからん。もうしかして、俺は死ぬとか? いやいや冗談がキツイぜ。そうだ! これはドッキリなんだ。誰かが仕掛けた罠に違いない。今もどこかで、誰かが俺を見て笑ってんだろう。ほらもう少しで「ドッキリ大成功!」と書かれたプラカードとヘルメットを被った奴が出てくるもんだ。そうに違いない。
俺が現実逃避している間にも彼女は何の感情も見いだせず、一瞬視線が鋭くなると同時に、腕を振りかぶった。長刀が空を切る音と、もう思考停止状態でそれをぼんやりと眺める事しかできない俺がそこにいた。
あと少しで、スイカ割のように俺を構成するパーツが飛び散るっていう間際、
「あっ、ちょっとタンマ」
なんとも緊張感のない声が聞こえてきた。
「これって、人間だよね~」
何だ? 何だ? この状況にまったくにつかわない声だ。ゆっくりと視線を上げると、少女が振りかざした切っ先が俺のすぐ頭上にあるじゃないか。
「ねえねえ、ゆきね。やっぱこれって人間だよね? どう思う?」
口の動きから少女が喋っているようには見えないが、誰が喋っているのだろう?
「……わからない。でも、こいつ敵かも」
今度はその少女の口が動いた。
「でも、見た目は普通の人間ぽいし、さっきはコンタクトをとろうとしていたように思えるんだけど」
また、どこからの声。話しかけられた少女はゆっくりと口を開き、
「こんな所に一般の生徒がいるわけないじゃない。ここはいつも鍵がかかっていて誰も入ってくることなんかできやしないのに。だから、やっぱこいつは敵なんだよ」
そう言って少女は、再び腕を振り上げた。ちょっ、ちょっと待てよ、やっぱ俺は真っ二つにされちまうのか?
「ちょっと待ってくれ!」
今度はちゃんと言葉になってくれた口に感謝し、少女を見上げると、さっきまでの表情はどこへやら、呆けた表情で俺を見つめていた。
「ほらー、やっぱり一般人だったじゃない。よかったね。ミンチにしなくって」
どこかからとんでもない声が聞こえてくるが、とりあえず刀が振り下ろされないということは、生命の危機から脱出したってことなのか? しかし、さっきまではなんの表情も見出せなかった少女が今度は魂を抜かれたかのように立ち尽くしているじゃないの。
少女は振りかぶっていた何かを俺に目掛けて振り下ろす。その顔は何の表情も読み取れず、まるで蚊を叩き潰すような何でもない動作のようだった。
「くっ!」
少女が振りかざした物が俺に触れようかとした刹那、瞬間的に身の危険を感じた俺は咄嗟に隣の空間に飛び込んだ。着地を考えていなかったものだから、派手に膝を擦り剥いてしまったが、そんな事を言っている暇はない。振り返った俺が目にしたのは、女の子には似合う筈もない長い何かを振りかざした格好のまま片膝をついていた少女だった。
少女は、ゆっくりと首を捻り、床にひれ伏している俺を見つけると、これまたゆっくりと立ち上がって、華奢な体を揺らしながらこちらに向かって足を踏み出した。
「ちょっ、ちょっ」
やっとの思いで喉から振り絞ったが、まったくもって言葉になっていなかった俺の必死の叫び声も少女には聞こえていないのか、特に歩みをやめる気配はない。
俺は、必死になって這い蹲っていた体に速攻で命令し、立ち上がろうと膝を立てると、少女が持っていた物が行き手を阻むかのように掲げられたのだが、目の前にあるそれは紛れもなく日本刀。通常日本刀ってのは七十センチ位だと何かの本で読んだことがるのだが、俺の目の前で鈍い輝きを放っている鋼はゆうに一メートルを越えており、文字通りの長刀だった。
しかも、さっきまで俺が居た場所が結構な深さまで抉られてるってことは、その刀マジもんなのか!
「…………」
少女は無言のまま俺を見下ろしている。その表情は、無表情という比喩がぴったりの何の意思も感じられず、俺をゴキブリや何やらと思っているのかもしれない。何だ? 俺が起こしたのがそんなにマズかったのか? それで不機嫌モードなこの子は八つ当たりをしているだけなんだよな? そうだよな? たのむ、そうであってくれ!
そんな俺の思惑とは裏腹にゆっくりと少女の腕が上がる。なんだこりゃ、もお完全に意味がわからん。もうしかして、俺は死ぬとか? いやいや冗談がキツイぜ。そうだ! これはドッキリなんだ。誰かが仕掛けた罠に違いない。今もどこかで、誰かが俺を見て笑ってんだろう。ほらもう少しで「ドッキリ大成功!」と書かれたプラカードとヘルメットを被った奴が出てくるもんだ。そうに違いない。
俺が現実逃避している間にも彼女は何の感情も見いだせず、一瞬視線が鋭くなると同時に、腕を振りかぶった。長刀が空を切る音と、もう思考停止状態でそれをぼんやりと眺める事しかできない俺がそこにいた。
あと少しで、スイカ割のように俺を構成するパーツが飛び散るっていう間際、
「あっ、ちょっとタンマ」
なんとも緊張感のない声が聞こえてきた。
「これって、人間だよね~」
何だ? 何だ? この状況にまったくにつかわない声だ。ゆっくりと視線を上げると、少女が振りかざした切っ先が俺のすぐ頭上にあるじゃないか。
「ねえねえ、ゆきね。やっぱこれって人間だよね? どう思う?」
口の動きから少女が喋っているようには見えないが、誰が喋っているのだろう?
「……わからない。でも、こいつ敵かも」
今度はその少女の口が動いた。
「でも、見た目は普通の人間ぽいし、さっきはコンタクトをとろうとしていたように思えるんだけど」
また、どこからの声。話しかけられた少女はゆっくりと口を開き、
「こんな所に一般の生徒がいるわけないじゃない。ここはいつも鍵がかかっていて誰も入ってくることなんかできやしないのに。だから、やっぱこいつは敵なんだよ」
そう言って少女は、再び腕を振り上げた。ちょっ、ちょっと待てよ、やっぱ俺は真っ二つにされちまうのか?
「ちょっと待ってくれ!」
今度はちゃんと言葉になってくれた口に感謝し、少女を見上げると、さっきまでの表情はどこへやら、呆けた表情で俺を見つめていた。
「ほらー、やっぱり一般人だったじゃない。よかったね。ミンチにしなくって」
どこかからとんでもない声が聞こえてくるが、とりあえず刀が振り下ろされないということは、生命の危機から脱出したってことなのか? しかし、さっきまではなんの表情も見出せなかった少女が今度は魂を抜かれたかのように立ち尽くしているじゃないの。

