「でしょ。もしかしたら、その子は助かっていたかもしれない。凜ちゃんが一人で責任を背負い込むことないよ。はっきり死んじゃったって判った訳じゃないんだからさ」
麻衣は優しく、微笑みながら見つめるが、巫部は落としていた視線を麻衣に向けると、
「じゃあなんで、あの後公園に来てくれなかったの? 私はずっと待ってた。もしかしたら無事かもしれないって。だけど、あれからあの子が来る事はなかった。だから、きっと……」
巫部は瞳に涙を浮かべ、両手をぐっと握り締めその体が震えていた。
「きっと、もうこの世界からいなくなっちゃったんだって。だから私はあの子がいる世界を望んだ。そしてやっとここを見つけた。私はここで唯一の友達と言えるあの子を探すの!」
そう言って巫部は廊下へと走り出してしまった。その足音は次第に遠くなる。
「ごめん、蘭。私じゃダメだった」
瞳の脇に涙を溜めた麻衣が振り返る。麻衣は麻衣で巫部の事を本気で心配していたのだろう。学校での一番の友達だったのだからな。
「ねえ、凜ちゃんを追って、私じゃ説得できなかったけど、きっと蘭ならできると思うの。お願い、凜ちゃんを助けてあげて」
麻衣の瞳から涙が大量に溢れ出している。だが、悲しそうな顔を見せずに俺を見つめ微笑みかけた。
「おっし、まかせとけ」
その言葉を吐くと同時に俺は廊下に向かって飛び出し、巫部が走り去ったであろう方向に向かい全力でダッシュした。三階の教室を全て見回るも巫部の姿は見えない。そのままの勢いで二階、一階へと足を向けるが、どこにもいないじゃないか。これはもう、校舎の中にはいないのかと思い踵を返そうとすると、重い金属扉の閉まる音が耳に入った。
「この音は屋上の扉か」
校舎内の教室は全部見渡した。だとすると、もう屋上しか残されていない。
屋上に通じる階段を二段抜かしで駆け上がり、ドアに手をかけゆっくりと扉を開けると、フェンス際に一人の少女の姿が見える。一切の灯りが無い空を見上げフェンスに手を掛けていた。俺は一歩一歩踏みしめるようにゆっくりとその少女に向かい歩を進める。その少女は俺が近づいているのは分かっているだろうが、空を見上げたままだった。
「巫部……」
背後に立ち、名前を告げると少女はゆっくりとこちらに振り返る。その顔は、今までに見たことも無いような表情で、悲しさの中の微笑みといった表情であった。
巫部の前に立つが俺は言葉が出ない。俺にとって巫部はどんな存在だったのだろうか。いきなり入学式の朝に俺と麻衣を訳のわからん事に巻き込みやがるし、おまけに、勝手に俺と麻衣を生徒会に巻き込んだ。いつもマシンガントークを炸裂させ、俺は今までこいつの笑顔かニヤケ顔しか見てこなかった。人の意見なんてお構いなしで、正にキングオブ自己中じゃないか。
俺はうんざりしていた。早くこいつから逃れたいと。
だがな。ここで俺は認めなくてはいけない。入学してから昨日までの生活は、俺にとって今までに経験したことのない楽しいできごとだった。
ちくしょう、俺は巫部と出会い、麻衣やゆきね、天笠と過ごしたハチャメチャな高校生活が楽しかったと本気で思っちまってるじゃねえか。できるものなら戻りたい。あの生徒会室へ。
それなのに、昨日から俺が見ていたのは巫部の悲しそうな表情だけだ。そう、あの時公園で一人遊んでいた少女のように。一人で全て抱え込んでいるような表情だけだった。
当時の俺はその子の笑顔が見たくて声をかけた。せっかく公園で遊んでいるのに全然楽しそうにしていなかったから、遊ぶ時は笑うもんだ、と。だが俺は今、再び巫部に同じ顔をさせている。しかも、今回は俺が事故に遭い死んだかもしれないと思っているからだ。こんな辛い思いはさせたくない。こいつはいつも笑顔で俺たちをからかっている方がこいつらしい。いや、そうしていなければならない。世界が無くなる危機だろうが、闇の世界が拡大しようが、どうでもよくなった。俺はこいつの不安要素を取り除かなければならない。世界の事について考えるのはその後だ。
「ねえ……」
感情を押し殺しているかのような巫部の声。
「なんだ」
「この世界のどこにその子がいると思う? やっぱりあの公園かな」
「ここには居ないだろ、闇だらけの不思議な世界だからな。居るとしたら元の世界じゃないか」
「元の世界……って、そこにあの子はいないのよ?」
「やっぱり、その子が死んだと思っているのか」
「そうね。生きているって話は聞かなかったし、それっきりあの子に会えなくなっちゃったからね。きっとあの子はその時私を庇って死んでしまったのよ」
「麻衣も言ってたがそれを確認したのか? 新聞とかニュースで見たのか?」
「ううん、見てないわ。だけど、あれだけたくさん血が出てて、動かなくなっちゃったのよ。大人がみんな隠しているだけできっと……」
「自分が見てないならまだ生きている可能性もあるだろうに」
「ないのよ! そんなこと!」
突然巫部は叫ぶように大声を張り上げ、その場にしゃがみこんでしまった。まるで巫部以外の人間が発する全ての言葉を拒否するかのように。
麻衣は優しく、微笑みながら見つめるが、巫部は落としていた視線を麻衣に向けると、
「じゃあなんで、あの後公園に来てくれなかったの? 私はずっと待ってた。もしかしたら無事かもしれないって。だけど、あれからあの子が来る事はなかった。だから、きっと……」
巫部は瞳に涙を浮かべ、両手をぐっと握り締めその体が震えていた。
「きっと、もうこの世界からいなくなっちゃったんだって。だから私はあの子がいる世界を望んだ。そしてやっとここを見つけた。私はここで唯一の友達と言えるあの子を探すの!」
そう言って巫部は廊下へと走り出してしまった。その足音は次第に遠くなる。
「ごめん、蘭。私じゃダメだった」
瞳の脇に涙を溜めた麻衣が振り返る。麻衣は麻衣で巫部の事を本気で心配していたのだろう。学校での一番の友達だったのだからな。
「ねえ、凜ちゃんを追って、私じゃ説得できなかったけど、きっと蘭ならできると思うの。お願い、凜ちゃんを助けてあげて」
麻衣の瞳から涙が大量に溢れ出している。だが、悲しそうな顔を見せずに俺を見つめ微笑みかけた。
「おっし、まかせとけ」
その言葉を吐くと同時に俺は廊下に向かって飛び出し、巫部が走り去ったであろう方向に向かい全力でダッシュした。三階の教室を全て見回るも巫部の姿は見えない。そのままの勢いで二階、一階へと足を向けるが、どこにもいないじゃないか。これはもう、校舎の中にはいないのかと思い踵を返そうとすると、重い金属扉の閉まる音が耳に入った。
「この音は屋上の扉か」
校舎内の教室は全部見渡した。だとすると、もう屋上しか残されていない。
屋上に通じる階段を二段抜かしで駆け上がり、ドアに手をかけゆっくりと扉を開けると、フェンス際に一人の少女の姿が見える。一切の灯りが無い空を見上げフェンスに手を掛けていた。俺は一歩一歩踏みしめるようにゆっくりとその少女に向かい歩を進める。その少女は俺が近づいているのは分かっているだろうが、空を見上げたままだった。
「巫部……」
背後に立ち、名前を告げると少女はゆっくりとこちらに振り返る。その顔は、今までに見たことも無いような表情で、悲しさの中の微笑みといった表情であった。
巫部の前に立つが俺は言葉が出ない。俺にとって巫部はどんな存在だったのだろうか。いきなり入学式の朝に俺と麻衣を訳のわからん事に巻き込みやがるし、おまけに、勝手に俺と麻衣を生徒会に巻き込んだ。いつもマシンガントークを炸裂させ、俺は今までこいつの笑顔かニヤケ顔しか見てこなかった。人の意見なんてお構いなしで、正にキングオブ自己中じゃないか。
俺はうんざりしていた。早くこいつから逃れたいと。
だがな。ここで俺は認めなくてはいけない。入学してから昨日までの生活は、俺にとって今までに経験したことのない楽しいできごとだった。
ちくしょう、俺は巫部と出会い、麻衣やゆきね、天笠と過ごしたハチャメチャな高校生活が楽しかったと本気で思っちまってるじゃねえか。できるものなら戻りたい。あの生徒会室へ。
それなのに、昨日から俺が見ていたのは巫部の悲しそうな表情だけだ。そう、あの時公園で一人遊んでいた少女のように。一人で全て抱え込んでいるような表情だけだった。
当時の俺はその子の笑顔が見たくて声をかけた。せっかく公園で遊んでいるのに全然楽しそうにしていなかったから、遊ぶ時は笑うもんだ、と。だが俺は今、再び巫部に同じ顔をさせている。しかも、今回は俺が事故に遭い死んだかもしれないと思っているからだ。こんな辛い思いはさせたくない。こいつはいつも笑顔で俺たちをからかっている方がこいつらしい。いや、そうしていなければならない。世界が無くなる危機だろうが、闇の世界が拡大しようが、どうでもよくなった。俺はこいつの不安要素を取り除かなければならない。世界の事について考えるのはその後だ。
「ねえ……」
感情を押し殺しているかのような巫部の声。
「なんだ」
「この世界のどこにその子がいると思う? やっぱりあの公園かな」
「ここには居ないだろ、闇だらけの不思議な世界だからな。居るとしたら元の世界じゃないか」
「元の世界……って、そこにあの子はいないのよ?」
「やっぱり、その子が死んだと思っているのか」
「そうね。生きているって話は聞かなかったし、それっきりあの子に会えなくなっちゃったからね。きっとあの子はその時私を庇って死んでしまったのよ」
「麻衣も言ってたがそれを確認したのか? 新聞とかニュースで見たのか?」
「ううん、見てないわ。だけど、あれだけたくさん血が出てて、動かなくなっちゃったのよ。大人がみんな隠しているだけできっと……」
「自分が見てないならまだ生きている可能性もあるだろうに」
「ないのよ! そんなこと!」
突然巫部は叫ぶように大声を張り上げ、その場にしゃがみこんでしまった。まるで巫部以外の人間が発する全ての言葉を拒否するかのように。

