「だからね。蘭」
麻衣は真剣な表情に戻っていた。
「凜ちゃんに全てを話すんじゃなくて、ヒントをあげるだけでいいと思うの」
「全部を話さないって、そうしないと根本的な解決にならないと思うぞ」
「例えば、蘭がその子というのは言わないで、あの子は助かったよとかさ。きっと凜ちゃんは誰かに許されたいんだと思う。救いの手を差し伸べてあげればいいと思うよ。多分いきなり蘭の話をしちゃうと心が壊れちゃうと思うから、もっとこうソフトに、凜ちゃんの気持ちが軽くなるような話し方で、背負っている責任を少しだけ軽くすることの方がいいと思うの。そうすれば心に負担がかからずに迷いは断ち切れると思うの」
「難しい事いうなよ」
「きっと、蘭にはできるよ。お願い。凜ちゃんを助けてあげて」
確かに、まず優先されるべきなのはこの世界の崩壊を阻止すること、それができなければ俺や麻衣、巫部は一瞬で無になってしまうだろう、だが、そればっかりに気をとられると巫部が背負っている責任を崩壊させてしまいあいつの心を壊す結果になってしまうのか。しかし、心が壊れるってどういう事だろう、心が生きる事を拒否してしまうようないわゆる廃人になるってことなのかな。でも、まあ、そんな巫部は見たくない。いつも俺と麻衣の会話に割り込み、生徒会室でも傍若無人でいてくれないと、こっちも拍子抜けってもんだ。二兎を追うものは一兎も得ずと言われているが、俺はその二兎を完璧な形で得なくてはならないのか。
「わかった。善処してみるよ」
そう言うと俺たちは黒一色が支配する階段を昇った。
三階に到着したが、何かの気配はない。ゆきねの言う通りここに意思を持った闇はいないらしい。ひたすらに無音の支配する教室に廊下。これだけこの世界にいれば嫌でも目は慣れるってもんで、何の障害もなく俺たちは端から教室を捜索していった。ドアを開け中を確認し、誰の姿もないと次の教室へと向かう。こんなループをしているうちに自分たちの教室にたどり着いた。
「私たちの教室よね? ここに凜ちゃんがいるの?」
「ゆきねが言うんだから間違いないと思うが」
そう言うと俺は引き戸に手をかけ、静かに引いた。すかさず教室内に視線をむける。こりゃここにも誰もいないか……と思った俺たちの視界に飛び込んで来たのは窓際に立つ一つの人影だった。だが、ここからでは薄暗く、『誰かがそこに居る』と言うのはわかるのだが、誰だか確認できない。
「巫部……か?」
とりあえずその人影に話しかけてみる。
「えっ」
その人影はすこし動揺したような声を上げ、こちらに振り返った。
「凜ちゃんですか?」
俺の後ろから麻衣も声をかける。ゆきねがここにいると言ったんだ。恐らく巫部だろう、まあ、他の奴だったらひっくり返るくらい驚くがな。
「その声は……麻衣?」
人影は口を開くが、その声は巫部そのものであり、恐る恐る人影に近づくと、やはりその人物は間違いなく巫部凜であった。
「やっと見つけた。結構苦労したぜ、お前を探すの」
「こっちの声は蘭ね。どうしてあんたたちがここにいるのよ」
久しぶりに聞く巫部の少しキレ気味の声。涙が出るほど懐かしいよ。
「それはこっちのセリフだ。巫部こそ、どうしてここにいるんだ?」
「私は……わからないの。気づいたらここにいて窓の外を見てたのよ。夢遊病の気があるのかしら?」
いつもの様に強気で口を開くが、その言葉の内容とは裏腹に少し震えているようだった。
「蘭、ここどこだと思う?」
巫部は再び窓の外へ視線を動かし、その先に広がる黒い絵の具で塗り潰されたような世界を見つめた。
「ねえ、この異様な雰囲気、現実世界じゃあり得ないわよね。これはもしかして私が話したもう一つの世界なのかしら」
探していたもう一つの世界をやっと見つけたという表現らしいのだが、俺にはそんなに嬉しそうに感じられなかった。
「そうかもしれないな。それで、お前はこの世界で何を願うんだ」
「言ったでしょ。私を庇ってくれたあの子を探すのよ。多分この世界のあの子は事故にあってもちゃんと生きていてくれていると思うもの」
窓の外から視線をこちらに向け、真剣な表情になる巫部。たしかに、本屋帰りの公園でそう言っていた。
「それはわからないだろ。こんな真っ暗な世界なんだ。昼か夜かもわからないのに、もう一つの世界って事はないだろ」
巫部は俺の瞳を睨みつけ、
「そんな事はないわ、今はきっと夜なのよ。もう少し経てばちゃんと太陽だって昇ると思うし、ここは私が捜し求めていた世界だわ」
「どうしてわかるんだ」
「私が感じるもの。今までの世界と違うって」
巫部はここがもう一つの世界と信じて疑わないようだ。まあ、たしかに異世界ではあるものの、ここはこいつが願っていた場所ではないのは明らかだ。
「ねえ、凜ちゃん聞いて」
後ろにいたはずの麻衣は俺の前に立ち、巫部と対峙する。
「悪いと思ったんだけど、蘭から全部聞いちゃったよ凜ちゃんの事。それでね、私思うんだけど、その……お友達が事故に遭ったっていうのは悲しい事だけど、そのお友達が死んじゃったって、確認はしたの? 誰かに聞いた?」
「それは……」
巫部は俯き、視線を床に落とした。
麻衣は真剣な表情に戻っていた。
「凜ちゃんに全てを話すんじゃなくて、ヒントをあげるだけでいいと思うの」
「全部を話さないって、そうしないと根本的な解決にならないと思うぞ」
「例えば、蘭がその子というのは言わないで、あの子は助かったよとかさ。きっと凜ちゃんは誰かに許されたいんだと思う。救いの手を差し伸べてあげればいいと思うよ。多分いきなり蘭の話をしちゃうと心が壊れちゃうと思うから、もっとこうソフトに、凜ちゃんの気持ちが軽くなるような話し方で、背負っている責任を少しだけ軽くすることの方がいいと思うの。そうすれば心に負担がかからずに迷いは断ち切れると思うの」
「難しい事いうなよ」
「きっと、蘭にはできるよ。お願い。凜ちゃんを助けてあげて」
確かに、まず優先されるべきなのはこの世界の崩壊を阻止すること、それができなければ俺や麻衣、巫部は一瞬で無になってしまうだろう、だが、そればっかりに気をとられると巫部が背負っている責任を崩壊させてしまいあいつの心を壊す結果になってしまうのか。しかし、心が壊れるってどういう事だろう、心が生きる事を拒否してしまうようないわゆる廃人になるってことなのかな。でも、まあ、そんな巫部は見たくない。いつも俺と麻衣の会話に割り込み、生徒会室でも傍若無人でいてくれないと、こっちも拍子抜けってもんだ。二兎を追うものは一兎も得ずと言われているが、俺はその二兎を完璧な形で得なくてはならないのか。
「わかった。善処してみるよ」
そう言うと俺たちは黒一色が支配する階段を昇った。
三階に到着したが、何かの気配はない。ゆきねの言う通りここに意思を持った闇はいないらしい。ひたすらに無音の支配する教室に廊下。これだけこの世界にいれば嫌でも目は慣れるってもんで、何の障害もなく俺たちは端から教室を捜索していった。ドアを開け中を確認し、誰の姿もないと次の教室へと向かう。こんなループをしているうちに自分たちの教室にたどり着いた。
「私たちの教室よね? ここに凜ちゃんがいるの?」
「ゆきねが言うんだから間違いないと思うが」
そう言うと俺は引き戸に手をかけ、静かに引いた。すかさず教室内に視線をむける。こりゃここにも誰もいないか……と思った俺たちの視界に飛び込んで来たのは窓際に立つ一つの人影だった。だが、ここからでは薄暗く、『誰かがそこに居る』と言うのはわかるのだが、誰だか確認できない。
「巫部……か?」
とりあえずその人影に話しかけてみる。
「えっ」
その人影はすこし動揺したような声を上げ、こちらに振り返った。
「凜ちゃんですか?」
俺の後ろから麻衣も声をかける。ゆきねがここにいると言ったんだ。恐らく巫部だろう、まあ、他の奴だったらひっくり返るくらい驚くがな。
「その声は……麻衣?」
人影は口を開くが、その声は巫部そのものであり、恐る恐る人影に近づくと、やはりその人物は間違いなく巫部凜であった。
「やっと見つけた。結構苦労したぜ、お前を探すの」
「こっちの声は蘭ね。どうしてあんたたちがここにいるのよ」
久しぶりに聞く巫部の少しキレ気味の声。涙が出るほど懐かしいよ。
「それはこっちのセリフだ。巫部こそ、どうしてここにいるんだ?」
「私は……わからないの。気づいたらここにいて窓の外を見てたのよ。夢遊病の気があるのかしら?」
いつもの様に強気で口を開くが、その言葉の内容とは裏腹に少し震えているようだった。
「蘭、ここどこだと思う?」
巫部は再び窓の外へ視線を動かし、その先に広がる黒い絵の具で塗り潰されたような世界を見つめた。
「ねえ、この異様な雰囲気、現実世界じゃあり得ないわよね。これはもしかして私が話したもう一つの世界なのかしら」
探していたもう一つの世界をやっと見つけたという表現らしいのだが、俺にはそんなに嬉しそうに感じられなかった。
「そうかもしれないな。それで、お前はこの世界で何を願うんだ」
「言ったでしょ。私を庇ってくれたあの子を探すのよ。多分この世界のあの子は事故にあってもちゃんと生きていてくれていると思うもの」
窓の外から視線をこちらに向け、真剣な表情になる巫部。たしかに、本屋帰りの公園でそう言っていた。
「それはわからないだろ。こんな真っ暗な世界なんだ。昼か夜かもわからないのに、もう一つの世界って事はないだろ」
巫部は俺の瞳を睨みつけ、
「そんな事はないわ、今はきっと夜なのよ。もう少し経てばちゃんと太陽だって昇ると思うし、ここは私が捜し求めていた世界だわ」
「どうしてわかるんだ」
「私が感じるもの。今までの世界と違うって」
巫部はここがもう一つの世界と信じて疑わないようだ。まあ、たしかに異世界ではあるものの、ここはこいつが願っていた場所ではないのは明らかだ。
「ねえ、凜ちゃん聞いて」
後ろにいたはずの麻衣は俺の前に立ち、巫部と対峙する。
「悪いと思ったんだけど、蘭から全部聞いちゃったよ凜ちゃんの事。それでね、私思うんだけど、その……お友達が事故に遭ったっていうのは悲しい事だけど、そのお友達が死んじゃったって、確認はしたの? 誰かに聞いた?」
「それは……」
巫部は俯き、視線を床に落とした。

