校舎内に入る頃には動悸が収まり、なんとか普通に歩けるようになった。職員玄関の辺りは特に異常はない。全てが闇でほぼ手探り状態だが、これといっておかしな点は見当たらなかった。
「……」
隣ではゆきねが俺の横を淡々と歩いており、こいつには全部見えているのか? 常人の視力ではないのではないかと思えるほど、いつも通りの姿勢と表情で廊下を歩いていた。
一階フロアを全て見回るも、これといった出来事もなく、真っ暗な学校なだけであった。二階へ向かおうかという頃にはやっと少しは目がなれ、教室の輪郭が確認できるが、やっぱこの状況って不気味だよな。
「なあ、結局バグってなんなんだよ」
「バグはバグよ。本来平衡世界となるはずだったもののできそこない。そこに人類はいないわ。ただ闇の世界が広がっているだけよ」
「じゃあ、本来あるはずの世界がバグってこんなになっちまったって言うのか?」
「そう、何かがおかしいイレギュラーな世界。でも排除しなくちゃいけないの。人間の身体もたった一つのウィルスで死に至ることもあるでしょ。通常と異なるものは排除しなくちゃいけないの」
「そうなのか。で、どうやったらこの世界を排除できるんだ?」
「バグの中にはその創造主がいるわ。そいつを倒せば消える」
「一応聞いておく。その創造主ってのはそんなのなんだ? まさかバケモノ的な何かなのか?」
「まあ、見れば一目瞭然だと思うんだけど、創造主は闇そのものなのよ」
「闇そのもの?」
「まあ、正確にはわからないんだけどね。闇が意識を持って存在しているわけ。そいつを倒せばこの世界は崩壊するわ」
「倒すってどうやって?」
「正体がわからない闇な以上、物理的にぶっ壊すのが普通でしょ? いままでもそれで解決してきたのよ」
なんとも豪快な。いかにもゆきねらしい物言いだな
しかし、夜っぽい学校で女の子と二人なんてとても緊張するシチュエーションだな、こりゃ。しかも、ゆきねはパッと見れば超が付くほどの美少女なので、すぐ隣を歩いていると若干緊張もする。絹のような髪から発せられる鼻腔をくすぐる仄かなシャンプーの香りに思わず眩暈を起こしそうだ。変な気を起こさなければいいのだが。
そんな杞憂とともに、二階へと続く階段にさしかかった瞬間、隣を歩くゆきねが突然立ち止まると振り向きざまに俺の肩が掴れ、
「んっ?」
と疑問を口にしている間にそのまま後ろにものすごい力で引かれ、特に踏ん張っていなかった俺はその後方への運動エネルギーに拮抗することができずに放り投げられた。と同時に鋭い金属音。
「ガキン」
しりもちをつく情けない格好の俺が見たものは、長刀を両手に何かに抵抗しているのようなゆきねの姿なのだが、俺にはゆきねの姿しか見えない。ゆきねが戦っている相手の姿が確認できず、まるで姿のない暗闇と戦っているようだった。
「ふん。不意打ちとは良い度胸じゃない」
そう言うと同時にゆきねは長刀を振り払い、大きく振りかぶるとそのまま振り下ろした。
再度聞こえる甲高い金属音。クリーンヒットしたっぽいその音を背景に長刀を床まで振り切るゆきねだが、そこから再度横なぎ一閃。どやらまだ敵は健在らしい。
「なかなかしぶといわね。でも次ぎで最後よ」
ゆきねが勝利宣言をしたのとほぼ同時くらいだった。俺にもわかるような気配はとてつもない勢いでゆきねに向かっていった。
「あっ!」
危ないと言おうとした瞬間。ゆきねは振り向きざまに長刀を薙ぎ払った。
三度響く金属音。鉄柵を鉄パイプでぶっ叩いたかのような音が静寂の支配する校舎内に響き渡たる。ああ、闇と戦うってことは金属のように固い物体と戦うってことなのか。なんて悠長に考察している場合ではない。この状況を一言で表すのならば「囲まれた!」ってことだ。だが、生憎俺には戦うすべが無い。ここで打ってでようものならほんの一瞬で動かない肉塊の完成って訳だ。
「くっ、仲間がいたとわね。でも、何匹いようが構わない。私は私の使命を全うするのみ」
こんな状況でも冷静な声のゆきねは、前と後ろを交互に睨みながら攻撃の隙を伺っているようだ。だが、そんな膠着状態も長くは続かず、何かが動く気配にゆきねが先手を打った。
前方に大きく跳躍したと思ったら長刀を大きく振りかぶり、そのままの勢いで振り下ろす。正に渾身の一撃と思われた攻撃だったのだが、今度は振り切れないで空中で留まってしまっている。そうしている間に後方にいた物の気配が急速にゆきねへと向かっていった。
「くっ!」
後方から迫る気配に対応しようにも、ゆきねは目の前の敵に対応しているため直ぐには攻撃に移れない。これは正真正銘の絶体絶命ってやつじゃないのか? どうする? 俺!
そう思った時には既に体が動いていた。あんな華奢な女の子がこの世を救うために戦っているんだ。男の俺がここで指を銜えている道理はない。何としてもゆきねを助けないと。ここから先はあいつの力が絶対必要だ。
俺はどこに居るかもわからない敵に向かって体当たりを試みるも、あっさり何かに振り払われ、次の瞬間には廊下の窓に激突してしまった。幸い痛いという感覚があるということはまだ死んではいないようだな。
「あんた! 何やってんのよ! 死にたいの!」
押し切られそうになるのを堪えながらゆきねが叫ぶがその顔は明らかに動揺していた。
「こっ、ここは私がなんとかするから! あんたは逃げて!」
最後は悲痛な叫びにのような言葉に俺はどう行動するのが正しいのか。
①一目散に逃げる。
②「ここはリベンジだぜ」と意気揚々に立ち向かう。
③誰か助けを呼ぶ。
何故かどれを選択しても即行でバッドエンド一直線のような気をもするのだが、ここで俺が取るべき行動は②しかねえじゃねえか。ここでゆきねを一人置いて逃げるなんてことはできない。いや、したくない。
俺はさきほど激突し、粉々になった窓のフレームを手に取る。素手では何の効果もなさそうなので、武器っぽいものがないとな。RPGでも素手よりひのきの棒の方が攻撃力が上がるってもんだ。
「……」
隣ではゆきねが俺の横を淡々と歩いており、こいつには全部見えているのか? 常人の視力ではないのではないかと思えるほど、いつも通りの姿勢と表情で廊下を歩いていた。
一階フロアを全て見回るも、これといった出来事もなく、真っ暗な学校なだけであった。二階へ向かおうかという頃にはやっと少しは目がなれ、教室の輪郭が確認できるが、やっぱこの状況って不気味だよな。
「なあ、結局バグってなんなんだよ」
「バグはバグよ。本来平衡世界となるはずだったもののできそこない。そこに人類はいないわ。ただ闇の世界が広がっているだけよ」
「じゃあ、本来あるはずの世界がバグってこんなになっちまったって言うのか?」
「そう、何かがおかしいイレギュラーな世界。でも排除しなくちゃいけないの。人間の身体もたった一つのウィルスで死に至ることもあるでしょ。通常と異なるものは排除しなくちゃいけないの」
「そうなのか。で、どうやったらこの世界を排除できるんだ?」
「バグの中にはその創造主がいるわ。そいつを倒せば消える」
「一応聞いておく。その創造主ってのはそんなのなんだ? まさかバケモノ的な何かなのか?」
「まあ、見れば一目瞭然だと思うんだけど、創造主は闇そのものなのよ」
「闇そのもの?」
「まあ、正確にはわからないんだけどね。闇が意識を持って存在しているわけ。そいつを倒せばこの世界は崩壊するわ」
「倒すってどうやって?」
「正体がわからない闇な以上、物理的にぶっ壊すのが普通でしょ? いままでもそれで解決してきたのよ」
なんとも豪快な。いかにもゆきねらしい物言いだな
しかし、夜っぽい学校で女の子と二人なんてとても緊張するシチュエーションだな、こりゃ。しかも、ゆきねはパッと見れば超が付くほどの美少女なので、すぐ隣を歩いていると若干緊張もする。絹のような髪から発せられる鼻腔をくすぐる仄かなシャンプーの香りに思わず眩暈を起こしそうだ。変な気を起こさなければいいのだが。
そんな杞憂とともに、二階へと続く階段にさしかかった瞬間、隣を歩くゆきねが突然立ち止まると振り向きざまに俺の肩が掴れ、
「んっ?」
と疑問を口にしている間にそのまま後ろにものすごい力で引かれ、特に踏ん張っていなかった俺はその後方への運動エネルギーに拮抗することができずに放り投げられた。と同時に鋭い金属音。
「ガキン」
しりもちをつく情けない格好の俺が見たものは、長刀を両手に何かに抵抗しているのようなゆきねの姿なのだが、俺にはゆきねの姿しか見えない。ゆきねが戦っている相手の姿が確認できず、まるで姿のない暗闇と戦っているようだった。
「ふん。不意打ちとは良い度胸じゃない」
そう言うと同時にゆきねは長刀を振り払い、大きく振りかぶるとそのまま振り下ろした。
再度聞こえる甲高い金属音。クリーンヒットしたっぽいその音を背景に長刀を床まで振り切るゆきねだが、そこから再度横なぎ一閃。どやらまだ敵は健在らしい。
「なかなかしぶといわね。でも次ぎで最後よ」
ゆきねが勝利宣言をしたのとほぼ同時くらいだった。俺にもわかるような気配はとてつもない勢いでゆきねに向かっていった。
「あっ!」
危ないと言おうとした瞬間。ゆきねは振り向きざまに長刀を薙ぎ払った。
三度響く金属音。鉄柵を鉄パイプでぶっ叩いたかのような音が静寂の支配する校舎内に響き渡たる。ああ、闇と戦うってことは金属のように固い物体と戦うってことなのか。なんて悠長に考察している場合ではない。この状況を一言で表すのならば「囲まれた!」ってことだ。だが、生憎俺には戦うすべが無い。ここで打ってでようものならほんの一瞬で動かない肉塊の完成って訳だ。
「くっ、仲間がいたとわね。でも、何匹いようが構わない。私は私の使命を全うするのみ」
こんな状況でも冷静な声のゆきねは、前と後ろを交互に睨みながら攻撃の隙を伺っているようだ。だが、そんな膠着状態も長くは続かず、何かが動く気配にゆきねが先手を打った。
前方に大きく跳躍したと思ったら長刀を大きく振りかぶり、そのままの勢いで振り下ろす。正に渾身の一撃と思われた攻撃だったのだが、今度は振り切れないで空中で留まってしまっている。そうしている間に後方にいた物の気配が急速にゆきねへと向かっていった。
「くっ!」
後方から迫る気配に対応しようにも、ゆきねは目の前の敵に対応しているため直ぐには攻撃に移れない。これは正真正銘の絶体絶命ってやつじゃないのか? どうする? 俺!
そう思った時には既に体が動いていた。あんな華奢な女の子がこの世を救うために戦っているんだ。男の俺がここで指を銜えている道理はない。何としてもゆきねを助けないと。ここから先はあいつの力が絶対必要だ。
俺はどこに居るかもわからない敵に向かって体当たりを試みるも、あっさり何かに振り払われ、次の瞬間には廊下の窓に激突してしまった。幸い痛いという感覚があるということはまだ死んではいないようだな。
「あんた! 何やってんのよ! 死にたいの!」
押し切られそうになるのを堪えながらゆきねが叫ぶがその顔は明らかに動揺していた。
「こっ、ここは私がなんとかするから! あんたは逃げて!」
最後は悲痛な叫びにのような言葉に俺はどう行動するのが正しいのか。
①一目散に逃げる。
②「ここはリベンジだぜ」と意気揚々に立ち向かう。
③誰か助けを呼ぶ。
何故かどれを選択しても即行でバッドエンド一直線のような気をもするのだが、ここで俺が取るべき行動は②しかねえじゃねえか。ここでゆきねを一人置いて逃げるなんてことはできない。いや、したくない。
俺はさきほど激突し、粉々になった窓のフレームを手に取る。素手では何の効果もなさそうなので、武器っぽいものがないとな。RPGでも素手よりひのきの棒の方が攻撃力が上がるってもんだ。

