ワガママ姫め…詩月の言葉をを聞き流しながら教室へと向かう。
歩みを止めることなく3階への階段に足を掛けると、詩月は立ち止まり言った。

「たっくん!責任とって帰りはウチに寄ってよね!もちろん一緒に帰るんだからね!」

オレは返事をする代わりに片手を上げた。

佐久間詩月と佐久間華月。
双子なのに、似ているのは顔だけで、性格も好みもまるで違う二人。あ、いや、双子だからと比べられるだけで、違って当然か。
一つ年下の二人を幼い頃から知っている。それこそ、家族かっていうくらいに。
それくらい、ずっと近くにいる。

姉の詩月は、長いストレートの髪。フェミニンな服装。外見の可愛らしさもあって、男受けはいい。長女には珍しく甘え上手で、それが高じてワガママな面も、あり。ただし、本人に自覚はなし。
友だちとうまくいかないこともあるようだけど、間に入って仲を取り持つのが私の役割、と華月が言っていた。それ以外にもあれこれ面倒をみているから、姉妹は姉と妹が逆転しているように見える。まぁ、姉妹と言っても数分の違いだろうから、姉も妹もないとオレは思うけど。

対して、妹の華月。小学生になった途端にそれまで詩月とお揃いだった長い髪を切り、活動的な雰囲気になった。それまで二人を識別できなかった友人たちも、これ以降呼び間違えることがなくなり、華月は喜んでいた。今でもそれは継続中で、少し茶色がかった緩くクセのついたボブは華月のトレードマークみたいなものだ。服装も動きやすいのが一番、とパンツばかり。運動神経もよく、面倒見がいいからか、あいつの周りには人が絶えない。特に部活はしていないが、お誘いだの助っ人要請だのは頻繁。ただ…あいつは一人で頑張りすぎる。

あ、そういえば、華月の制服以外のスカート姿を最後に見たのはいつだろう…

そんなことを考えながら教室に入ると、既に担任は前に立っていて、オレは心の中で盛大な舌打ちをした。