うるさい心臓に急かされるように部屋に逃げ帰った私が、漸くキッチンへ戻るとそこはすっかり片付いていて、詩月がキッチンタイマー片手に私に手を振る。

「はーちゃん、グッドタイミング。どれ食べる?」

テーブルの上にはなんのことはないカップラーメンが3つ。

「あ、もうお昼だもんね。私、どれで…」

「あー、華月遅い。オレ、これね。」

私がもたもたしているとキッチンタイマーが時間を告げ、拓真が一つ引き寄せ割り箸を割った。
それを見た詩月が大げさなため息をついて抗議を表すけど、拓真は無心で麺を啜り始める。

「じゃあ、私、これ食べていい?」

拓真を睨みつつ、もう一つを指さした詩月に私は頷いて残りの一つを引き寄せた。
けど。
私、どこに座ろう…詩月は既に拓真の向かいに座っている。さっきの今で、拓真の顔を見ながらなんて無理だ。かといって隣も。
まごまごしていると、拓真が自分の横の椅子を引く。

「ほら、早く食えよ。のびるぞ?」

相変わらず口調は乱暴だけど、斜めに見上げる視線は甘い。

「う、うん。」

その視線にドキドキしながら、詩月を見るけど助けてくれる感じでもなく、私は言われるまま拓真の横に座った。ささやかな抵抗で座る直前、さりげなく椅子を離して、体も気持ち外へ向けた。
だから、さっきの今じゃ気まずいのだ。というのに。

「なにやってんだよ。」

「いやっ、ちょっと!」

食べ終えた拓真は割り箸を咥えたまま、私を椅子ごとズルズルと引き寄せた。

「おまえの分まで食おうってわけじゃないから、露骨に避けんな。」

「別に、そんなこと思ってないけど…」

黙って食べていた詩月がふふっと笑った。