不機嫌な幼馴染みが好きなのは・・・


私がぶつかったくらいじゃびくともしない広い背中を睨みつつ前を覗き込めば、いつの間にか駅前の交差点で、信号が赤に変わったところだった。
一応「ごめん」と声を掛けたけど、拓真は振り返りも返事もしない。

うわー、なんか腹立つ。

無意味に昨日の苛立ちまで蘇ってきて、私は握り締めた拳で拓真の背中をドンと殴った。

「ってぇなぁ!なんなんだよ!」

「うるさいっ!詩月がいなくて不機嫌なら、私のことなんか放っておいて一人で行ってよ!連絡しなかったのは悪かったけど!…帰るっ!」

突然の攻撃に振り返る様は、仁王さまかと見間違うばかりの鋭い睨みだが、私はそんなの恐くない。ふんッと今来た道を戻り始めた。
背中に拓真の「おいっ!」と呼び止める声は聞こえたけど、私はそのまま家を目指した。

鼻息荒く最初の曲がり角まで来て、ちらりと後ろを見た。幸い拓真は追ってきていない。
まぁ、そうか。
勝手にイライラしている幼馴染みに付き合って学校を休むなんてバカなことはしないヤツだ。口が悪くて愛想はないけど友だちも多いし、意外と真面目だから先生たちからの信用も厚い。
そして、詩月に優しい。
ついでに言えば、背が高くて顔も整っている、方だと思う。

(八つ当たり、だよな…電車間に合ったかな…)

角を曲がったところで歩くスピードを緩め、反省してみる。

「ま、大丈夫だよね、拓真だし。」

拓真に心配も反省も無用!とまたも勝手に結論付けて、私はのろのろと家へと歩いた。