バランスを崩して倒れる寸前。
慌てた風でもなく伸ばされた腕に抱き竦められた。
そして、そのままソファへと倒れ込んだ。…とは言っても、ふわりと落とされたのは私の体だけで、拓真はソファに膝立ちの状態。腕は私の体に巻き付いたままだから、体も顔も密着していないけれど、近い。
…近すぎる。
今まで一緒にいた時間の中で、一番近い、気がする。
動けば触れそうな距離で、気付けば吸い込まれるように見つめ合っていた。
拓真の目に、私が映っている。
拓真が一瞬口角を上げ腕に力を入れたと思ったら、グイッと体が遠のいた。
は?と目を見開く拓真と、え?と一瞬寂しさを感じた私。
ん?…え?寂しい?私、が?
「はい、そこまで。」
目が笑っていない詩月が拓真のエプロンを引き絞り、私から引き離す。
チッと舌打ちをして体を起こした拓真が、無言で私を引き起こし、頭をポンポンと叩くと不機嫌そうにキッチンへと戻っていく。
「はーちゃん、大丈夫?」
拓真の後ろ姿をじろりと睨んだ詩月が、私を心配そうに見たから、コクコクと頷く。
本当は全然大丈夫じゃない。
顔は熱いし、心臓もバクバクいってる。
もう、私が私じゃないみたいで、ちょっとしたパニックだ。
「わ、私、着替えてくるっ」
自分でも不自然だと思うくらいぎこちない動きでソファから立ち上がり、詩月にそう言うと逃げるように部屋へと向かった。
当然のことながら、キッチンの拓真の方はちらりとも見られなかった。