学校に着いて。
不機嫌な拓真が詩月に紙袋を突き返した。
「あ、たっくん、ありがと。」
拓真の不機嫌さなんか物ともしない詩月が人受けする笑顔を浮かべお礼を言うと、拓真は呆れたように冷たい視線を向けた。
でもそれは一瞬のことで。
私の方へ向き直ると、空いた手で私の手を取った。
その表情に不機嫌さはない。
突然のことに頭の中は疑問符だらけで、宙に浮く手を眺めてしまう。
まだ手袋をつけたままの私の左手。
きっと冷え切っている拓真の右手。
「で。」
なんの脈絡もなく拓真が話し出す。
なにが「で」なのか、頭のいい人の発言じゃないな、なんてことを思いながら続きを待つと、続いた言葉に絶句する。
「華月、オレにチョコ作ってくれる気になった?」
「は…ぁ?」
眉間にしわを寄せて見上げれば、肩を竦めた拓真が「まだダメか」と残念そうに呟く。
「ま、明後日までまだ時間もあるし、な。」
自分というよりは私に言い聞かせるようにそう言うと、拓真は左手で私の頬を一撫でした。その手がやっぱり冷たくて、私の眉間のしわはますます深くなる。
「あ、冷たかったよな。悪い。」
一瞬目を細めて、拓真は「じゃあな」と一人階段を上っていく。
何がしたいんだ、アイツは。
あ…チョコ作らせたいんか…
心を少しずつ浸食してきている拓真の存在。
それを許してしまっている私の気持ち。
そんな自分を認めたくない私。
不意に泣きたくなった。
こんなところでは泣かないけど。
ずっと黙って見ていた詩月がふわりと私を抱きしめて、言った。
「はーちゃん、素直になっていいんだよ。」