詩月が早起きしたおかげで、今朝は準備も早く済んで、私たちはいつもより10分も早く外に出られた。
いつもは待っていてくれる拓真の姿はまだ、ない。
冬晴れの今日も空気は肌に痛いくらい寒い。

「寒っ…いつもこんな寒い中待たせてるんだ…」

巻き付けたマフラーに顔が半分隠れた状態で、思わずこぼした独り言。
きっと隣に立つ詩月にも聞こえていないけど。
来週からはもう少し早く家を出るように詩月を追い立てようと心の中で思う。
手袋をつけた手もコートのポケットに突っ込んで、俯きながら足踏みしていると、急に目の前が陰って頭を上から押さえつけられた。

「・・・うっ」

「なんで今日に限って早いんだよ?」

不機嫌そうな声音に見上げれば、顔はそうでもない拓真が私の頭を撫で回す。
視線だけ恨めしく上げるとフッと緩んだ拓真のそれとぶつかる。

…だから。
そういう目をするなって。

慌てて俯いて頭を振り、拓真の手を外そうと試みるけどうまくいかない。
寒くて痛かったはずの頬が熱い。

「たっくん、はい、これ持って。」

私だけが分かるようにニヤリと笑って、詩月は手にしていた紙袋を拓真に押しつけると、私の頭から拓真の手を振り払って私の腕を取る。

「はい、行くよー。」

その日、珍しく。
詩月は拓真でなく、私と並んで学校までの道のりを歩いた。
拓真は何も言わず、私たちの後ろを不機嫌そうについてきた。