「き、聞こえてた…?」
「うん。ごめんね、聞いちゃった。」
見合わせた顔はそれぞれ違う表情。
慌てふためく私と、苦笑いの詩月。
でも詩月のそれは、ちょっと楽しそうでもあって、私はますます困惑する。
「はーちゃんが作りたいなら止めないけど、別に私が作ってもバレないだろうし。だいたい、催促するとか、ちょっとねぇ…?方針転換にしても極端過ぎるんだから…」
詩月はプリンを口に運びながら、ね?と私に同意を求めた。
あのあと。
詩月の荷物持ちをさせられた拓真は、手伝うだけ手伝わされて、本当にお茶一杯で追い出された。
帰り際、不満そうに詩月を一睨みして出ていったのだけど、玄関から私を呼ぶから呼ばれるまま拓真のもとへ行ったのが間違いだった。
「なに?忘れ物?」
エプロンを結びながら近付いたら、拓真の右手が私の髪を一房掬い取った。無言で。
「な、なに?なんなの?」
慌てふためいて体を固くさせた私に、フッと頬を緩めて拓真が笑った。
笑った!?
初めて見る甘い表情に、私の心臓が再び跳ねた。
私の髪を指に絡めながら、拓真が不思議なことを言い出した。
「ついで、でいいから、オレにも作って。」
「な…なにを?」
「チョコレート。」
「それは、詩月に、言って…よ。」
「華月の、が、いい。」