リビングに入ると詩月が飛びついてきて、二人一緒によろける。
咄嗟に壁に手をついて倒れることはなかったけど、ふわりと詩月の長い髪からシャンプーの香りがした。

「はーちゃん、昨日はごめんね?許して?」

詩月が抱きついたまま、上目遣いに、媚びるように、口を開いた。
甘える口調なのに、詩月だと嫌みにならないのは不思議だ。私がやったら気味悪がられるに違いない。
詩月をまじまじ見つめながら、私と詩月は同じ顔の全く別の生き物だなと思った。

「もう、いいよ。プリンシュー食べさせて。」

別に詩月が悪かったわけじゃない。それは二人とも分かっている。
それでも詩月から仲直りの機会を与えてくれているのだから、私はそれに甘える。

「はーちゃん、ありがと。あ、はーちゃん、髪の毛グチャグチャだよ?」

腕を解いてニコリと笑うと、詩月は私の髪を指で梳いた。
リビングのソファには拓真が一人、自分の家で寛ぐかのようにどかりと座っていて、相変わらずの不機嫌顔でこちらを見ていた。
でも、その目は不機嫌そうじゃなくて。
安心したかのような穏やかさを感じる。

拓真の不機嫌そうじゃない顔、久しぶりだ・・・なんて思っていたら、ふと目が合った。
けど、先に目を逸らしたのは拓真の方。
視線どころか顔まで逸らして、拓真はいつまでも私に纏わり付く詩月を呼んだ。

「詩月、早くお茶。」

そんな声に肩を竦めて、「はいはい」と詩月はキッチンへ戻っていく。