どうしよう・・・どうしよう・・。
雪は悔しいような悲しいようなどうしようもない辛い気持ちに襲われていた。
でも何よりあの優しかったおばさんを裏切ってしまったのが悲しかった。
しかし、暮らす場所も寝る場所も無くなり、着の身着のままの雪には悲しんでいる時間もなかった。
もう人間として生きた時間が長すぎて、狐に戻ることもできない。
例え戻ったとしても、山での生活に対応できず飢え死にするか、食われるかが落ちだ。
・・・そうだ。
突然思い出した。唯一の知り合いの家を。
それは話していたときにさりげなく教えてくれたあの家。
「__丁目の桜がきれいな家だよ・・。」
それは他の誰でもない、雪の恋した清水敬太の家だ。
「桜?家に植えてあるの?」
「そうだよ。父さんのが植えたんだ。昔美しい女のひとが持ってきた枝を挿し木したんだって。」
やっとの思いでたどり着いた桜のある家。
今どきは珍しいのですぐわかった。
他の公園等の桜はすっかり葉桜になっているというのに、この一本の桜はまだ満開に近く、咲き誇っている。
「清水」その文字が目に入りインターホンを押す手が震える。
・・・冷静になれよ私。好きな子の家に遊びに来ただけ。遊びに来ただけ。遊びに来ただけ・・。
動悸はまだしていたが、もう恋のせいではないと思うと怖くはなかった。それが雪にとっての救いだった。
「よし。」
小さくそういうと、インターホンに手をかける。
震えが止まらない________。
と、その時だった。
「どちら様でしょう」
そこに出てきたのは背筋をシャンと伸ばした男性だ。
4・50代くらいだろうか。
インターホンに集中しきっていた雪は、急に声をかけられ、驚いて飛び上がった。
「す・・みません」
やっとの思いで答えた雪に、その男性は雪に負けず劣らず驚いた表情で
「香織?香織なのかッ!」
と叫んだ。
「ああ、香織・・・よかった。」
雪は何のことかわからず、どぎまぎしながら答えた。
「え?あの私・・。」
「さ、さ、中にお入り。」
その男性は雪の言葉を遮るようにそう言った。
意味が分からないまま半ば強引に家の中に連れられた。
家の中は我こそが日本家屋、と語っているような雰囲気を醸し出している靴箱にうっすらと埃を被った木彫りの熊があった。
そういえば清水君、小さい頃この熊が怖くて一人でトイレに行けなかったって言ってたっけ。
思い出してクスリと笑う。
雪はこの状況を皮肉めいて楽しんでいた。
・・・・自分が雪だということを証明して何になる。
そもそも私は雪ではなく、本より人間でさえない。狐なんだ。
それにもう自分が香織ではないと証明するなんて不可能だ。
私が香織ではないという証明なんて・・・きっと誰にもできない。
雪はそんなことをぼんやりと考えていた。
・・・私は・・・香織として生きていくのか?
狂い始めた思考はそんな事を云う。
それが如何程なことなのか、どれほど重要なことなのか、考えることもできなくなっていた。
「どうしたんだい、ぼんやりして。」
男性の声にハッとする。
「さア香織戻っテ来たンダ敬太にも言わなくては。」
けいた・・・敬太・・・・。
敬太?!
そうだ私は清水君の家に・・。
こんな時間に上がり込んで・・。
でもおかしいよこの男の人。
まるで・・何かに操られてる?
「あハハハハハハハハハハ敬太ああああ!!」
そういうと男は狂ったように白目をむき、くねり乍ら床を転げまわった。
雪は、ただ茫然と男を見つめていた。
雪は悔しいような悲しいようなどうしようもない辛い気持ちに襲われていた。
でも何よりあの優しかったおばさんを裏切ってしまったのが悲しかった。
しかし、暮らす場所も寝る場所も無くなり、着の身着のままの雪には悲しんでいる時間もなかった。
もう人間として生きた時間が長すぎて、狐に戻ることもできない。
例え戻ったとしても、山での生活に対応できず飢え死にするか、食われるかが落ちだ。
・・・そうだ。
突然思い出した。唯一の知り合いの家を。
それは話していたときにさりげなく教えてくれたあの家。
「__丁目の桜がきれいな家だよ・・。」
それは他の誰でもない、雪の恋した清水敬太の家だ。
「桜?家に植えてあるの?」
「そうだよ。父さんのが植えたんだ。昔美しい女のひとが持ってきた枝を挿し木したんだって。」
やっとの思いでたどり着いた桜のある家。
今どきは珍しいのですぐわかった。
他の公園等の桜はすっかり葉桜になっているというのに、この一本の桜はまだ満開に近く、咲き誇っている。
「清水」その文字が目に入りインターホンを押す手が震える。
・・・冷静になれよ私。好きな子の家に遊びに来ただけ。遊びに来ただけ。遊びに来ただけ・・。
動悸はまだしていたが、もう恋のせいではないと思うと怖くはなかった。それが雪にとっての救いだった。
「よし。」
小さくそういうと、インターホンに手をかける。
震えが止まらない________。
と、その時だった。
「どちら様でしょう」
そこに出てきたのは背筋をシャンと伸ばした男性だ。
4・50代くらいだろうか。
インターホンに集中しきっていた雪は、急に声をかけられ、驚いて飛び上がった。
「す・・みません」
やっとの思いで答えた雪に、その男性は雪に負けず劣らず驚いた表情で
「香織?香織なのかッ!」
と叫んだ。
「ああ、香織・・・よかった。」
雪は何のことかわからず、どぎまぎしながら答えた。
「え?あの私・・。」
「さ、さ、中にお入り。」
その男性は雪の言葉を遮るようにそう言った。
意味が分からないまま半ば強引に家の中に連れられた。
家の中は我こそが日本家屋、と語っているような雰囲気を醸し出している靴箱にうっすらと埃を被った木彫りの熊があった。
そういえば清水君、小さい頃この熊が怖くて一人でトイレに行けなかったって言ってたっけ。
思い出してクスリと笑う。
雪はこの状況を皮肉めいて楽しんでいた。
・・・・自分が雪だということを証明して何になる。
そもそも私は雪ではなく、本より人間でさえない。狐なんだ。
それにもう自分が香織ではないと証明するなんて不可能だ。
私が香織ではないという証明なんて・・・きっと誰にもできない。
雪はそんなことをぼんやりと考えていた。
・・・私は・・・香織として生きていくのか?
狂い始めた思考はそんな事を云う。
それが如何程なことなのか、どれほど重要なことなのか、考えることもできなくなっていた。
「どうしたんだい、ぼんやりして。」
男性の声にハッとする。
「さア香織戻っテ来たンダ敬太にも言わなくては。」
けいた・・・敬太・・・・。
敬太?!
そうだ私は清水君の家に・・。
こんな時間に上がり込んで・・。
でもおかしいよこの男の人。
まるで・・何かに操られてる?
「あハハハハハハハハハハ敬太ああああ!!」
そういうと男は狂ったように白目をむき、くねり乍ら床を転げまわった。
雪は、ただ茫然と男を見つめていた。

