翌日、清水への虐めは無くなった。
クラスは次のターゲットは誰なのか、ざわめき、恐怖で渦巻いていた。
しかし、また再びそれが始まることはなかった。
何故なのか、理由を知っているのは新太、ただ一人だけだ。

「ねえ。」
桜の花弁が雪のごとく舞う中、新太は雪に呼び止められた。
彼は風花のあの日を思い出していた。
「どうして清水くんへの虐めを急にやめてくれたの?私が次のターゲットじゃなかったの?」
彼女はあの日のようには冷たい色の瞳で真っ直ぐこっちを見ていた。
今更、あんな仕打ちをしておいて、好きだからとどの口が言える。
彼のプライドが許さなかった。
「飽きたから・・・だな。」
そう答えるのが、恋心を隠し続けるのがせめてもの罪滅ぼし。そう思った。
「あっそ。」
雪は素っ気なく答えた。
そして去って行った。桜はもうすでに葉桜になっている。
その後ろ姿を見ながら、新太は思った。「恋を終わらせよう。」そう決意した。

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新太の美しくない恋が終わった日、そんなこととは知らず雪は帰路についていた。
雪は葉桜が好きだった。満開の桜もいいが、ぽつりぽつりと咲いている桜もまた美しい。
日は高くなり、5時ごろだというのに真昼のように明るい。
「ただいま帰りました。」
雪はそう言って玄関に入っていった。
_______此の後日常が消え去るとも知らず。

数秒後の事だった。

「この化け狐がっ!!」

狐という単語に緊張が走る。雪は肩をびくりと震わせた。
おばさんの声・・・・・?
震える足をやっとの思いで進めると、おばさんが鬼の形相で何かの写真を見ていた。
恐る恐る聞く。
「どうなさったのです?」
おばさんがぎっとこちらを睨みつつ振り返った。
「どうもこうもこれはどういうこと?」
突きつけられた写真。

それは耳がでて尻尾の生えた目付きの悪い、明らかに人外の姿の雪が映っていた。
「私ねずっと隠し撮りしてたの。まさか狐が本当に化けるとは思ってなかったけど、目の前で化けの皮剥がされたら、ねえ?」
おばさんがニヤリと口を歪ませる。
「っ・・・・・。」
雪は反論出来なかった。別人のようになってしまったおばさんが悲しかった。
あの優しさは嘘だったの?
「ずっと怪しいと思っていたのよ。それで部屋に行ってみたら・・。何が目当て?祟ること?お金?何でもいいわ。でもはやくここから・・・」
「出ていけ。」そう言われる前に雪は出ていこうとした。
すると突如足から崩れ落ちた。
「ふふ・・・よかった効いてきたみたい。」
おばさんは冷めた表情で笑っていた。
身体が動かない。息が出来なくなってきた。
何時もの動悸もやってきた。
苦しい。
「毎日食事に微量の毒を混ぜてたの。貴方の苦しむ姿を見るのは・・・最高だったわ・・・。」
雪にもうその声は聞こえていなかった。
殺される。そう思って無我夢中で逃げた。