「なんなんだよッ!!」
新太はトイレの個室で泣き声の混じった声で呟いた。


____山中雪です。
夏休み明け、突然やって来た転校生。
艶のある黒髪、透き通るような白い肌を持つ目付きの悪い少女はぼそぼそとした声でそう言った。
夏休みも明け、9月とはいえしつこく残る夏特有の湿度の高い暑さに、生意気盛りの悪童共もすっかり参っていた。
そんな中やって来た見知らぬ生徒に興味を持つのは数人の真面目な生徒だけだった。
新太もまた悪童のリーダー格で、自己紹介なんてこれっぽっちも聞いていなかった。

それなのに・・・。

冬の終わり、風花が舞う日のこと。新太はその時まで知らなかった。
まさか彼女に恋することになるとは。

その時彼は先生に嫌々プリントを運ばされていた。
「・・んだよさみいな・。」
彼の取り巻きの輩も皆知らないふりをして手伝おうともしなかった。
彼は分かっていた。本当の友達が一人もいないことを。
皆、彼のクラスでの立場を知っていて自分が標的になるのを防ぐため媚び諂っているだけだった。
そんな彼もまたその方法でしか仲間を作ることが出来ず、満たされた生活を送りながらも、どこかに空虚な気持ちを持っていた。
「・・・寂しい。」
風花がひらりとプリントの上に落ちてきた。
濡れてしまうと困る。そう思いプリントを抑えていた手を放し、溶ける前に除いてしまおうと思った時の事。
突如風が吹き、数枚が飛ばされた。慌てて拾おうとして更に数枚が飛んだ。
「萎えるわ・・。」
彼は憂鬱な顔で呟いた。
その時

「ねえ、落ちたよ?」

気配もせず現れたのは転校生だ。確か・・山・・中?
半年近く経っても憶えられないほどおとなしい彼女は冷たい色の瞳で真っ直ぐこっちを見ていた。
風はまだなお吹き、彼女の長い黒髪を揺らした。三つ編みにしているにもかかわらず胸下まである髪は、この上なく奇麗だ。
「ねえ、ほらプリント。」
彼ははっとした。彼女は落ちたプリントを拾ってこちらに突き出していた。
「早くしないと休み時間終わるよ?手伝うよ。」
彼の顔は紅潮した。ずっと見とれていたかった。
上手くしゃべれない。
こんな気持ちは初めてだ。
「いい。」
そうやっと答えると、ぼうっとした気持ちのままプリントを運んだ。
_____これは恋なのか?

風花はもうすでに消えていた。

・・・・次の授業に彼は遅刻し、教師に大目玉を食らったのは言うまでもない。