女狐が笑う日は

「行ってきます。」
そう言う、そして玄関を
出る。心地良い春の風が吹いてきた。
学校に向かって重い足を進める。
雪は学校は嫌いだった。勉強はこの上なく苦痛なほど嫌いな上、体育はすべて見学、運動はしないので冷やかしの目で見られる。
それに・・恋をしてしまう。
そこまで考えたところで突然の吐き気と動悸が雪を襲う。
「かッ・・・は・・。」
そうして言い付けを思い出す。
「恋をしてはいけない。」
雪は恋をしてしまったのだった。
恋をするのは苦しい。
できることなら、学校になんて行きたくない。
だが、行かなくてはおばさんに迷惑がかかる。
その一心で学校に行く。
ようやく収まってきた。
中学校につく。
校門に立つ生徒指導の教師に軽く会釈をすると、教室へと向かった。
_________隠し通さなきゃ。恋心も、正体も。
そう強く思い、教室のドアを開ける。
大概雪は一番乗りなのだが、今日は誰かがいる。
誰なのだろうか。

そして、その正体が分かった瞬間、雪の心臓は跳ね上がった。
雪の恋した寡黙な少年、清水敬太だった。

_______________それは去年の9月。
雪がこの学校に来たばかりの頃。
友達もできず、一人でいた雪が、移動教室の場所が分からず迷っていた雪に、声をかけてくれた。


「こっち。」


それからというもの、彼は雪に頻繁に声をかけてくれた。
勉強のこと、学校のこと、他愛もない会話・・・。
雪も彼と話すのは楽しく、不安な日常に色が飛び込んできたようだった。
しかし、何時しか彼は一切のかかわりを絶った。
彼はそのころから虐められ始めたのだ。
きっと雪が巻き込まれるのを防ぎたかったのだろう。
しかし雪は彼との事が忘れられなかった。
雪は自分の恋心を意識し始めた。
友達ができても、彼との距離が離れても・・・。