そして、電車はやってくる。


車内にはすでにたくさんの人がいて、私たちは空いた隙間に入り込んだ。


別に車内で立つのは慣れっこだし嫌いじゃないけど、困る事が一つ。


「あの、吊り革届きますか?無理しないで、俺に掴まって下さい」

「だ、だだだ大丈夫!ほら、届くし!」


ギリギリだけど。と、足と腕をいっぱいいっぱいに伸ばすが、いざ電車が動き出すとやっぱり踏ん張りが利かない。


「う、わっ」


大きく横に飛んでいきそうになる私を春は強く引き寄せた。



「お願いだから、掴まってて。離さないで」

「……はい」



そう余裕なさげな表情をして言う春が何だかすごく男の子に見えて。


ついさっきまで子犬に見えてはずなのに、腕に触れてみると思ったよりしっかりしていた事に気付いて。


心臓が少し飛び跳ねた。