「おいお前、バカじゃねぇの?」
「成績下から数えた方が早い葵にバカって言われたくないんだけど」
葵の風貌からして場違いな雰囲気に、図書室を利用する生徒たちの注目を浴びる。
「邪魔しにきたんなら相手してるヒマないから教室戻ったら?」
「へいへい」
生返事をしながら隣のイスにダルそうに腰掛ける葵。
だけどその目はいつになく真剣で、そんな目でじっと見つめてくるものだから、何だか調子が狂う。
集中していられず、私はしびれを切らした。
「ねぇ聞いてる?」
「お前、いつから寝てねーの?」
「え?」
「顔色わるいし。って、手首細っ。お前ちゃんと食ってねーだろ」
「た、食べてるわよ」
ゼリータイプのカロリーメイトだけど。それが一番手っ取り早いから。
「昼休みになると図書室に消えるし。日に日に青ざめた顔なってるし。あいつら心配してるぞ」
「ごめん。だけど、私この次のテスト頑張るって決めてんの。良い点取らなきゃ」
「そんなんじゃ倒れて期末どころじゃないって」
「うるさい、ほっといてよ」
「ほっとけねーよ」
「なんでよ」
「なんでって。とにかくみんな心配してっから、教室戻ったら声くらいかけてやれよな」
本当、何しに来たんだろ葵のやつ。
参考書に向き直ると、ころんと一つ飴玉が置いてあることに気がつく。
葵は葵なりに、私のことを心配して来てくれたんだ。
私は飴玉を口に放り込んで、残り時間勉強に集中した。
