「そんなの、分かんないよ。言ってくれなきゃ。ちゃんと言葉で言ってくれなきゃ伝わらな、」
その時、伊緒の唇に塞がれてあたしの言葉は簡単に遮られた。
何度も何度も角度を変えて深いキスがあたしを襲う。
酸素が足りなくなって伊緒の胸を力なく叩けば、やっとあたしは解放されるけど。
乱れた互いの呼吸になんだか変な気分になってしまう。
ぱっと伊緒から目を逸らせば、くすりと笑う伊緒の声。
「これでもまだ分からない?」
目の前には悪戯に微笑む伊緒の顔。
「好きな子と部屋に二人きりになって何とも思わないわけない。だから、俺からは結芽の部屋に行かないようにしてた。ま、誰かさんは毎日のように来ちゃってたけどね」
「ま、まさかいつも本読んでたのって」
「気紛らわすのどれだけ大変だったか結芽に分かる?」
いつもとキャラの違う伊緒に戸惑ってしまって、あたしはただ顔を赤らめることしか出来ない。
再び、伊緒の顔が近づいてきて、思わずぎゅっと目を瞑った。
けれど唇に触れた感触はなく、うっすら目を開けてみると今度はオデコにキスされた。
そのまま伊緒は起き上がり、あたしは一人ベッドに残される。
「あ、あれ?」
「なに残念そうな顔してんの」
「だ、だって」
「あ、そうだ。さっき質量がどうとか言ってたね」
立ち止まり、戻ってくる伊緒に慌てて体を起こして身構えるけれど。
「 」
「っ」
そっと囁かれた言葉によって悶絶しまたベッドへと倒れこんでしまった。
