「い、嫌だ」



力を振り絞ってそう一言呟いた時、後ろから伸びて来た手がケンくんの腕を掴んだ。



驚いてその手の主に視線を向ければ、そこにいたのは。



「伊緒」

「誰?お前。つーか邪魔すんなよ、離せよ」



いきなり出てきた伊緒に怒るケンくん。



だけど伊緒は少しも怯むことなくケンくんを睨み付けた。



こんなに怒った伊緒の顔、初めて見た。



あたしはそんな伊緒の姿から目が離せない。



あまりの迫力にケンくんが一歩後ろに下がった時、伊緒の口からドスの利いた一言が発せられた。



「触んな」

「え?」

「この子、俺のなんだけど」

「え、あ、わ、悪かったよ」




やっと言葉の意味を理解したらしいケンくんは、腰を低くして奥へ逃げ込んでしまった。



そんな姿を呆然と見つめていると、「帰るよ」今度はあたしの腕を掴んだ伊緒はそのまま店の外へとあたしをひっぱり出した。





お店を出る時、騒ぎに気付いた葵とアイちゃんが話しているのが少しだけ聞こえた。



「ねぇ葵くん、今の超かっこいい男の子誰?ユメちゃんと出てちゃったね」

「初めて見た。あいつのあんな必死な顔」

「え?」

「いや、なんでもない」