「違うよユメちゃん。ブルの構え方はね、こう」
「え、あ、あぁ、はい」
囲うようにしてあたしの背後に立つケンくん。
なんか、さっきからやたらと距離が近い。
それはダーツのやり方を伝授してくれているからなんだろうけど。
手が腰とか足とかに触れて、なんだかとても気まずい。
「さ、投げてみて」
「こ、このままですか?」
「そうだよ」
「ちょ、ちょっと離れませんか」
「えーなんでー」
「何でって」
じりじりと距離を詰められて、あたしの背中はあっという間にダーツボードへと辿り着いてしまう。
あたしは刺さったブルを回収するフリをしてその場をやりすごそうとするけれど。
あれ、まただ。
なんか頭がクラクラして、上手く動けない。どうして。
気付くと目の前にはケンくんの姿が。
駄目だ、逃げなきゃ。
頭が危険信号を出している。逃げろって。
それでも足に力が入らなくて、あたしはぴたりと背中をボードにくっつけてしまい動くことが出来なかった。
ケンくんの手が、あたしの頬に触れて強制的に上を向かされる。
こんな手は嫌だ。
こんな乱暴な手は知らない。
