「ずっと見てた。吊り革に手が届かなくて、一生懸命電車の揺れに耐える郁の姿」

「ずっと……?」

「ずっと。ずっと助けてあげたいって、守ってあげたいって思ってた」


あまりにも笑顔で嬉しそうに話す春がどうしても可愛く思えてしまって、私は少しだけ、腕に掴まる手の力を強めた。


そして。



「ありがとう。は、は、春……」



改めて名前を呼ぶと、時間差で自分の顔に熱が集まってる事に気付いた。


黙り込んでしまった彼の顔を勇気を出して見上げてみれば、私よりも真っ赤に顔を染めた春がいた。










「あ、あの、抱き締めても良いですか…」

「ぜ、絶対ダメ!!」


速攻で断るも「……で、電車の中だし……」と絶対聞こえないだろう音量で付け加えたはずなのに。



次の駅で降ろされて思いっきり抱き締められたのはまた別のお話。





fin.