「うぅっ……一瞬意識が飛びかけた……」

目を開ければ、倒れた私のお腹の上に伏せをするゴールデンレトリバー。ハッハッと興奮気味に私を見つめている。

「ははは……もう、元気だなぁ」
その爛々とした瞳に、思わず力が抜けた。

「お嬢さん、お怪我はありませんか!」

その頭をよしよしと撫でていると、慌てたように飼い主が現れる。

「大変失礼しました。いつもは私を無視して突然走り出す事は無いのですが……すみません、お手を」

そう言って差し出される手に、ようやくその人の姿を確認した。その人は黒のカフェコートに身を包んだ60歳くらいの老紳士だった。

なんか、喫茶店のマスターみたいだなと思う。

「あ、ありがとうございます……」

お嬢様扱いに感動しながらその手をとると、ふわりと苦いようでホッとするような香りが鼻腔に届く。

──コーヒーのいい匂いだ……。

そんな事考えていると、ようやく私の上にいたゴールデンレトリバーから解放された。

「ふぅ……」

「申し訳ありません、怪我などはされてないですか?」

「あ、全然大丈夫です!このとおりピンピンしてます!」

両手をぶんぶん振り回せば、老紳士は一瞬目を見開いて、すぐに微笑む。